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『ファーストキス 1ST KISS』時を駆け抜け、時をカンナで磨き上げるラブストーリー ※注!ネタバレ含みます

©2025「1ST KISS」製作委員会

『ファーストキス 1ST KISS』時を駆け抜け、時をカンナで磨き上げるラブストーリー ※注!ネタバレ含みます

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※本記事は物語の詳細に触れているため、映画未見の方はご注意ください。


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書き手が受け手を信じる映画



 脚本:坂元裕二、主演:松たか子。デビュー・シングル「明日、春が来たら」への歌詞提供からスタートした二人のコラボレーションは、その後『カルテット』(17)、『スイッチ』(20)『大豆田とわ子と三人の元夫』(21)といったドラマ作品で、最高のケミストリーを生み出してきた。最新作『ファーストキス 1ST KISS』(25)は、その最高到達点といえる。


 松たか子が演じるのは、夫・硯駈(松村北斗)との結婚生活が15年目を迎えた女性カンナ。だが夫婦生活はすっかり冷え込み、二人は離婚届を提出することに。そんな矢先、駈が事故でこの世を去ってしまう。突然の出来事に途方にくれるカンナは、夫と初めて出会った日にタイムスリップし、彼の生命を救うために奔走するのだった…。


 見知らぬ男女が出会い、恋に落ちるまでを描くのではない。倦怠期を迎えた夫婦が、再び恋に落ちるまでを描く。夫婦関係(もしくは元夫婦関係)の再構築というテーマは、『最高の離婚』(13)や『大豆田とわ子と三人の元夫』(21)でも扱われていた。それは、一度は結ばれた二人が新しい関係性を模索するまでの物語だったが、『ファーストキス 1ST KISS』は、がっつりロマンス系。15年前の夫に会いに行くというSF設定によって、王道のロマンティック・コメディが完成した。



『ファーストキス 1ST KISS』©2025「1ST KISS」製作委員会


 筆者がこの映画を観てまず驚いたのは、タイムリープの映画にしてはあまりにも説明がなさすぎること。①崩落事故のあったトンネルを突き抜けると、カンナと駈が初めて出会った15年前にタイムスリップできる。②カンナは、15年前の自分自身と出会ってはいけない。③トンネルに戻ると、再び現代に帰ることができる。④15年前の行動によって、歴史改変が可能となる。⑤崩落事故の工事が完了すると、2度とタイムスリップができなくなる。上記のようなタイムトラベル・ルールを、カンナは誰に教わることもなく瞬時に理解し、的確に行動していく。


 彼女の超人的飲み込みの速さは、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(85)や『恋はデジャ・ブ』(93)や『アバウト・タイム〜愛おしい時間について〜』(13)といった、無数のタイムトラベル映画を観てきた観客の知識・リテラシーとリンクしている。SF的お約束が我々の脳内に蓄積されているからこそ、説明シーンが極端なまでに削ぎ落とされていても、状況をあっという間に理解することができるのだ。


 もちろん2時間という制約のなかで、シナリオを刈り込んでいったという経緯もあるのだろうが(松村北斗は、最初の脚本はそのまま撮影したら4~5時間くらいのボリュームだったと証言している)、『ファーストキス 1ST KISS』は書き手が受け手を信じることで生まれた作品といえる。





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