ゲーム的な感性、映画からのインスパイア
この映画には、いっさいのセリフがない。ナレーションもない。主人公は一体何者なのか、彼を追いかける黒い精霊の正体は何なのか、そもそも舞台となる島はどういう設定なのか、全ては謎に包まれている。我々観客もまた、主人公と同じようにいっさいの情報を与えられぬまま、奇妙な世界へと放り出されるのである。
設定は非常にゲーム的だ。敵モンスター(黒い巨人)から逃れた主人公は、高速移動するためのバイクを発見。リュックサックからは、HPを回復させるための水筒や、現在地と目的地を確認するためのマップを入手。第1ステージの「禁断のオアシス」、第2ステージの「鏡の湖」、第3ステージの「眠りの井戸」、第4ステージの「霧の入江」を駆け抜けることで、ゲームクリアとなる(半円のゲートをくぐることでステージが移行する)。
チャプターを4つに分けた理由は、財政的判断によるものだった。初めての長編映画に出資してもらうのは困難だろうから、4つの短編映画として資金調達すればいいのでは?と考えたのだ。とはいえ、本作がオープンワールド系アドベンチャーゲームのような佇まいを見せているのは間違いない。岩石を吊り橋に落下させて、黒い精霊を奈落の底に落とす場面は、非常にゲーム的な感性を感じさせる。
ジルバロディス自身も、『風ノ旅ビト』、『INSIDE』、『ワンダと巨像』といったゲームを参考作品に挙げているほど。「言葉のない世界で、主人公がたった一人広大な世界を旅する」という世界観は『風ノ旅ビト』に思いっきり符合しているし、巨大な怪物と人間との対比は『ワンダと巨像』を思い起こさせる。
『Away』©2019 DREAM WELL STUDIO. All Rights Reserved.
もちろん、映画からのインスパイアも多い。バイクでの移動シーンは、若き日のチェ・ゲバラが南米大陸縦断する『モーターサイクル・ダイアリーズ』(04)。主人公にとっての恐怖の対象(黒い精霊)が、ゆったりとした足取りで近づいてくる描写は『イット・フォローズ』(14)。執拗に追いかけ回される展開は、主人公の車をトレーラーが追い詰める『激突!』(71)。
スタジオジブリ作品がインスピレーションの源だとも語っているが、その中でも宮崎駿が手がけたテレビアニメ『未来少年コナン』(78)に言及しているのは興味深い。『Away』には墜落した旅客機の残骸が映し出される場面があるが、『未来少年コナン』にも「のこされ島」に墜落した宇宙船が描かれていた(コナンがロケット小屋として住んでいた場所)。おそらくビジュアル面において参考にしたのだろう。
ジルバロディスは、物語の強度よりも画の強度を優先する。セリフなしの映画を一貫して撮り続けている彼にとって、アニメーションとは映像そのものだ。クライテリオンが公開している番組「Criterion Closet Picks」に出演した際も、お気に入りの映画として紹介していたのは、ビジュアルのインパクトが強烈な作品ばかり。ざっと紹介しておこう。
ポール・トーマス・アンダーソン監督の『パンチドランク・ラブ』(02)、アルフォンソ・キュアロン監督の『天国の口、終りの楽園。』、ハル・アシュビー監督の『チャンス』(79)、勅使河原宏監督の『砂の女』(64)、マーティン・スコセッシ監督の『アフター・アワーズ』(85)、ウェス・アンダーソン監督の『ファンタスティック Mr.FOX』(09)、ゴッドフリー・レッジョ監督の『カッツィ三部作』(『コヤニスカッツィ』(82)、『ポワカッツィ』(88)、『ナコイカッツィ』(02)から成る三部作)、黒澤明監督の『天国と地獄』(63)。(*3)