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『Away』孤独と向き合い、孤独を見つめた、私小説的アドベンチャー

©2019 DREAM WELL STUDIO. All Rights Reserved.

『Away』孤独と向き合い、孤独を見つめた、私小説的アドベンチャー

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プレッシャーから逃げるのではなく、プレッシャーを引き受ける



 それにしても、黒い精霊の正体とは何なのだろう。『進撃の巨人』のような、巨大な捕食動物なのだろうか。それとも、死を司る自然神なのだろうか。もしくは、『もののけ姫』(97)のシシ神のように、生と死の両方を象徴する存在なのだろうか。あえて説明描写を削ぎ落とすことで、観客に思考を促したいと考えているジルバロディスは明言を避けているが、その一方でこのようなコメントもしている。


「あの巨人についていろいろな解釈を聞いた。ある人は“死”だと言う。鬱や不安だという人もいる。私は巨人を邪悪なものにはしたくなかった。とても客観的であってほしかった。巨人は自然の力のようなものだから」(*4)


 続けて彼はこう語る。


「私個人としては、この映画を一人で作ったとき、完成させなければならないというプレッシャーがあった。映画を完成させるという目標に到達しようとすると、疑念や不安、ネガティブな感情といったものが常につきまとうんだ」(*5)


 たったひとり未知の荒野をバイクで駆け抜け、さらなる大海原に飛び出そうとする青年は、おそらくギンツ・ジルバロディスその人だろう。彼もまた孤独のなかで映画制作に励み、バイクで転倒するように幾度となく失敗を繰り返し(ちなみに第1章のファイルを紛失してしまったために、改めて最初から作り直す羽目になったという)、ゴールを目指して決死のジャンプをする。黒い精霊とは、彼につきまとう不安そのものなのではないか。



『Away』©2019 DREAM WELL STUDIO. All Rights Reserved.


 黒い精霊に“呑み込まれる”のは、文字通りプレッシャーに“呑み込まれる”という比喩表現。崖の下に突き落としても、亡霊のように蘇ってくる負の感情。振り払っても振り払っても、“それ”は常につきまとってくる…彼が参考にしたという映画『イット・フォローズ』のように。


 そして彼は、プレッシャーが自然な感情であることも理解している。プレッシャーから逃げるのではなく、プレッシャーを引き受けることで(呑み込まれることで)、ジルバロディスは真のクリエイティブを理解する。だからこそ、大海原に向かってジャンプできたのだ。そう考えると、『Away』は非常に私小説的な作品といえる。自分の心情を真っ正直に引き写すことで、創造活動のプロセスをなぞっているのだから。


 1994年生まれの若き映画作家の冒険は、まだ始まったばかり。『Away』に続く長編第二作『Flow』(24)で、『インサイド・ヘッド2』や『野生の島のロズ』(24)といった作品をしりぞけてアカデミー長編アニメ映画賞に輝いた彼の未来には、光輝く大海原が広がっている。


(*1)https://www.imdb.com/title/tt22022452/

(*2)『Flow』公式プレスシート

(*3)https://www.youtube.com/watch?v=DkgBhjAwvj4

(*4)(*5)https://www.animationscoop.com/interview-animator-gints-zilbalodis-on-away/



文:竹島ルイ

映画・音楽・TVを主戦場とする、ポップカルチャー系ライター。WEBマガジン「POP MASTER」(http://popmaster.jp/)主宰。




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『Away』

提供・配給:キングレコード

再上映中

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