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『新幹線大爆破』ご都合主義万歳!ご都合主義上等!国産パニック映画の金字塔 ※注!ネタバレ含みます

©東映

『新幹線大爆破』ご都合主義万歳!ご都合主義上等!国産パニック映画の金字塔 ※注!ネタバレ含みます

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“人間の運命”を綴る



 脚本の第一稿は、犯人がほぼ登場せず、爆弾をどう除去するかに集中した本格サスペンスだった。だが最終的に本作は、濃厚な人間ドラマとして着地している。特に映画の中盤以降は、沖田の回想シーンが頻繁にインサートされ、彼らがなぜこのような事件を起こすに至ったかを克明に描く。『新幹線大爆破』がハリウッド産のパニック映画と決定的に異なるのは、登場人物の内面に肉薄した、ウェットな手触りだろう。佐藤純弥も、この映画がパニック・サスペンスであると同時に、“人間の運命”を綴った作品だと言明している。


「ある種人間の運命みたいなものを描いてみたいな、という気持ちなんですけどね。ジュリアン・デュヴィヴィエの『運命の饗宴』(42)じゃないですが、一着のフロック・コートがいろいろな人間の運命をつづっていくみたいな形で、爆弾に仕掛けられたある一つの新幹線の車輌にまつわる、いろいろな人間ドラマ、何かにあやつられている人間の運命みたいなものを描いていくのは、たいへんおもしろいな、と思いますね」


 濃厚な人間ドラマに舵を切ることで、『新幹線大爆破』はあらゆる局面で対立関係が生まれている。運転士の青木は、指令所からあれやこれや指示を出す倉持に感情を爆発させる。倉持は、人命救助を軽視して犯人逮捕に突き進む捜査第一課長の花村(鈴木瑞穂)のやり口が気に食わない。一致団結して事態に当たるべき国鉄の司令室サイド、新幹線サイド、警察サイドの三者のあいだで、緊張関係が生まれているのだ。


 そして物語の終盤、倉持は新幹線総局長(永井智雄)とも対立。爆弾の解除ができなかった場合に備えて、「甚大な被害が予想される市街地や工場地帯ではなく、安全地帯のゼロ地点で強制停車させるべきだ」と主張する総局長に対し、倉持は「乗客1500人の生命を見捨てることはできない」と反発。「小の虫を殺してでも、大の虫を生かさなければならない場合だってあるんだ」という理屈をどうしても受け入れられない。



『新幹線大爆破』©東映


 爆弾のコードを切断して、ひかり109号が無事停止したあとも、倉持は国鉄公安本部長の宮下(渡辺文雄)と対立する。宮下は、乗客が無事救出された情報を隠し、倉持が沖田に爆弾の解除方法を呼びかける放送を流し続けていた。全ては犯人逮捕のための偽計だったが、少しでも早く乗客の家族を安心させたいと考える倉持は、これも納得できない。ここには、お互いの信ずる倫理と倫理のぶつかり合い、正義感と正義感のぶつかり合いがある。


 この映画の醍醐味は、沖田がどのようにして身代金を受け取るか(どのように警察が沖田を捕まえるか)ではなく、むしろ身代金を手に入れたあと。タイムリミットが迫り来るなか、倫理的葛藤と対立が深まる展開にこそ、真の価値がある。新幹線が無事停車したあと、倉持と総局長が何も言葉を発せず、ただお互いの顔を見つめる切り返しの場面は、本作のハイライトではないか。


 国産パニック映画の金字塔、『新幹線大爆破』。それを下支えしているのは、間違いなく濃厚でダイナミックな人間描写なのである。


参考文献:

映画監督 佐藤純彌 映画(シネマ)よ憤怒の河を渉れ」(DU BOOKS)



文:竹島ルイ

映画・音楽・TVを主戦場とする、ポップカルチャー系ライター。WEBマガジン「POP MASTER」(http://popmaster.jp/)主宰。




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作品情報を見る



『新幹線大爆破』

5月9日(金)より2週間限定

提供:東映 配給:Filmarks

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