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『斬る』“東宝・岡本喜八映画”の集大成と呼ぶべき大傑作時代劇

イラスト:村山章

『斬る』“東宝・岡本喜八映画”の集大成と呼ぶべき大傑作時代劇

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『斬る』あらすじ

江戸末期、天保四年の上州小此木藩。元侍のヤクザ・源太と、田畑を売って二本差しの刀を買った元百姓の半次郎は、宿場町で出会う。半次郎は侍になるツテを求めて、城代家老を襲った七人の若侍たちを討伐する浪人隊に入り、源太とは敵と味方に分かれる。しかし2人は奇妙な縁で繋がって、藩を揺るがす大騒動の台風の目になっていく。


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“喜八タッチ”がノンストップで炸裂する傑作時代劇



 「世界でいちばん面白い映画」は何か? 答えが出るわけのないバカげた質問だが、極私的な思い入れで選ぶなら、1968年に公開された岡本喜八監督の娯楽時代劇『斬る』を挙げたい。


 映画の冒頭。荒れ果てた宿場町にゴウゴウと風が吹いている。佐藤勝の大胆かつ軽快なテーマ曲に合わせてババンッ!と「斬る」のタイトルが重なる。それだけでもうたまらなくカッコいい。そこをひとりの浪人者が歩いている。身なりはボロボロ、巻き上がる砂塵に吹き飛ばされそうなくらい腹が減っている。


 番所でめし屋があると聞いて、浪人は一目散に走り出す。が、向かい風が強くてなかなか前に進めない。ほとんどアニメみたいな表現だが、なんとかかんとか店までたどり着き「ばあさん、めしだ!」と駆け込む……と、ばあさんの足だけが天井からぶら下がっているのが見える。首をくくったのだ。


 映画が始まってものの数分。突如として現実が飛び込んでくる。この土地はただ寂れているのではない。絶望に包まれ、人は出ていったか寄りつかないか、めし屋のばあさんのように自ら命を絶ってしまったのだ。国境を見張る番所に詰めている侍たちだけがのんきに昼飯を食べ、爪楊枝で歯の隙間をほじっている。彼らにとって庶民の苦しみは他人事以下でしかない。


 まだ物語は始まってもいないのに、喜八監督は鮮やかな手さばきで本作の世界観に観客を放り込む。このスピード感、小気味いいリズム、そして階級社会を痛烈に皮肉る反骨精神が岡本喜八の真骨頂であり、ノンストップで炸裂する“喜八タッチ”に惚れ惚れせずにはいられない。





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