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『斬る』“東宝・岡本喜八映画”の集大成と呼ぶべき大傑作時代劇

イラスト:村山章

『斬る』“東宝・岡本喜八映画”の集大成と呼ぶべき大傑作時代劇

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黒澤明監督作『椿三十郎』と似ている事情



 ただし『斬る』の主人公は7人の若侍ではない。ひょんな行きがかりから彼らを手助けすることになる元侍のヤクザ・源太(仲代達矢)と、田畑を売って二本差しの刀を買った元百姓の半次郎(高橋悦史)である。映画冒頭の宿場町で2人は出会うが、半次郎は侍になるツテを求めて若侍たちを討伐する浪人隊に入り、源太とは敵と味方に分かれる。しかし2人は奇妙な縁で繋がって、藩を揺るがす大騒動の台風の目になっていく。


 古い日本映画や時代劇が好きな人であれば、ストーリーの骨子が黒澤明監督の『椿三十郎』(62)に似ていることに気づくだろう。『椿三十郎』もまた、流浪の主人公が藩政改革を目指す若侍たちに助太刀する物語だからだ。



『斬る』イラスト:村山章


 喜八監督は「話が似ているのは原作が似ているから」と発言している。どちらも山本周五郎の短編(『椿三十郎』は「日日平安」)が原案になっており、藩政改革に燃える若侍たちが登場する話なのである。とはいえ『斬る』が『椿三十郎』と相似している理由はほかにもある。


 喜八監督が最初に書いたシノプシスでは、主人公はひとりのヤクザ者だった。しかし6年前に大ヒットした『椿三十郎』の路線を強く要望していた会社側は修正を要求。喜八は、会社に言われるままに強くてカッコいい侍のヒーローを登場させて、黒澤の二番煎じをやらされるのはまっぴらごめんだった。そこでひねり出したのが、「侍を捨てたヤクザ」と「侍になりたい百姓」のW主人公体制だったのである。


 喜八監督にとって、黒澤明は東宝での先輩というだけでなく、目標とする憧れの監督だった。1977年にあるアンケートで「時代劇ベストテン」を選んだ際には、『七人の侍』(54)、『用心棒』(61)、『虎の尾を踏む男達』(45、公開は52年)、『椿三十郎』、『羅生門』(50)と10本中5本も黒澤作品を挙げている。


 しかし、だからこそ喜八は「ぼくらしい時代劇」にこだわったのではないか。そして(双子とまではいかないにせよ)兄弟のように似ているプロットだったからこそ、『斬る』は縦横無尽に喜八らしさを発揮できる機会となった。『斬る』が公開時に「『椿三十郎』の亜流」と評されたことは不可避だったが、両作ともべらぼうに面白い娯楽時代劇であるがゆえに、黒澤明と岡本喜八の映画作家としてのベクトルがまったく違うことがクッキリと浮き彫りになるのである。





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