東宝の狙いはグループ・サウンズ+時代劇?
『肉弾』は喜八にとって悲願の企画だったが、『斬る』もまた、「ボクの体質に合った、はじめから終わりまでアクセルを踏みっぱなし」という表現がピッタリな実に喜八らしい映画である。それが会社からの“褒美”だったかどうかはともかく、ひさしぶりに監督自身がイニシアチブを取ることができたことは間違いなく、やはり『日本のいちばん~』の成功によって得られた“自由”だったのではないか。
ただし東宝側も条件を出していた。1960年代後半、日本の歌謡界は海外のロックの影響を受けたグループ・サウンズのブームに湧いていた。その人気にあやかるべく「グループ・サウンズの線を狙え」というのだ。
『斬る』イラスト:村山章
そこで浮上したのが山本周五郎の「砦山の十七日」。藩政改革のために悪徳家老を粛清した7人の若侍が山中の砦に立てこもり、討手に包囲される中で仲間割れを起こすという物語で短編小説である。
正直、若者のグループが登場すること以外にグループ・サウンズとの共通項を見出すのは難しいが、「7人の若者は新劇畑の新人を揃える」という記事(1968年、キネマ旬報4月春の特別号)が出ているので、フレッシュな若者感をアピールする狙いはあったのだろう(実際、若侍役の7人のうち中村敦夫、橋本功、浜田晃、地井武男は、新劇畑で活動していた売出し中の若手だった)。