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伝説の映画が復活!4K修復のマジックとは? 第33回東京国際映画祭「日本映画クラシックス」【CINEMORE ACADEMY Vol.10】
2020年10月31日から開催された第33回東京国際映画祭。映画ファンにとっては事件と呼ぶべきなのが、今年の「日本映画クラシックス」部門だ。同部門は2015年の第28回から、日本映画史における重要作を中心に、4Kデジタルの修復版を積極的に上映してきた歴史を持つ。
今年の「日本映画クラシックス」が取り上げるのは、伝説の天才映画監督、山中貞雄の『河内山宗俊』(36)、『丹下左膳餘話 百萬両の壺』(35)、『人情紙風船』(37)と、山中貞雄の盟友でもあった名匠、稲垣浩監督の『無法松の一生』(43)の4作品。いずれも、今回の東京国際映画祭が日本での4K修復版のお披露目となる。
今回のCINEMORE ACADEMYでは、この特集がいかに大ニュースであり、事件であるかを、映画の修復という観点も絡めて、解説してみたい。
Index
- 天才監督が残した傑作三本がついに4K修復!
- 幻の天才監督、山中貞雄とは何者か?
- 「髷をつけた現代劇」の旗手
- 4K修復によって映画本来の姿が明らかに
- 名作群が永遠に失われる危機を回避できるか?
- 山中貞雄の親友・稲垣浩監督が手掛けた悲運の傑作
天才監督が残した傑作三本がついに4K修復!
映画に興味を持つと、多くの人が歴史をさかのぼり、いわゆる“巨匠”と呼ばれる存在に行き当たる。その二大巨頭が黒澤明と小津安二郎であることは、おそらく異論を挟む者はいないのではないか。とりわけ黒澤と小津が高く評価されているのは、作品に圧倒的な力や魅力があることはもちろんだが、海外の映画人から熱狂的に支持されていることも後押しになっている。
日本映画が国際的評価を得るきっかけは、1951年のヴェネチア国際映画祭での黒澤明の『羅生門』(50)の金獅子賞受賞だった。『羅生門』は翌年のアカデミー賞でも名誉賞(後の外国語映画賞)に輝いており、当時の日本映画のクオリティを世界中に知らしめた。また同じ黒澤の『七人の侍』(54)は「史上最高のアクション映画」とまで呼ばれるほどの評価を確立しているし、ジョージ・ルーカスが『隠し砦の三悪人』(58)を『スター・ウォーズ』(77)の下敷きにしたのも有名な話だ。
一方で小津安二郎は国際映画祭の舞台で華々しく活躍したわけではないが、1963年に亡くなってからヴィム・ヴェンダース、ジム・ジャームッシュ、アキ・カウリスマキ、侯孝賢ら世界各地の名監督が熱狂的なファンであると公言するようになり、黒澤に勝るとも劣らぬ評価を確立した。
他にもマーティン・スコセッシが絶賛する溝口健二や、大島渚、今村昌平らも、日本国内にとどまらず映画史の中に位置づけられることの多い監督と言える。
そして山中貞雄もまた、日本映画史上の天才監督として、必ずその名が登場する再重要人物のひとりだ。ところが、山中貞雄が天才であった所以を探るのは容易ではない。最大の理由は、彼が撮った作品のほとんどが現在では観ることができないのだ。
映画スターの嵐寛寿郎に引き立てられ、先輩格の小津安二郎に才能を見込まれるなど、同時代の映画人たちからも絶大な信頼を寄せられていた山中。28年間の短い生涯で26本もの作品を監督したが、かろうじてわずか3本の長編映画が、完璧とはいえない状態で残っているだけなのである。