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伝説の映画が復活!4K修復のマジックとは? 第33回東京国際映画祭「日本映画クラシックス」【CINEMORE ACADEMY Vol.10】

©日活 ©KADOKAWA1943 ©1937 東宝

伝説の映画が復活!4K修復のマジックとは? 第33回東京国際映画祭「日本映画クラシックス」【CINEMORE ACADEMY Vol.10】

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「髷をつけた現代劇」の旗手



山中貞雄の現存する監督作3本は、どれも江戸時代を舞台にした時代劇だ。うら若き日の原節子がヒロイン役を努めていた『河内山宗俊』は講談をベースにした人情劇。隻眼片腕の剣客という人気キャラ、丹下左膳を主人公にした『丹下左膳餘話 百萬両の壺』は、それまでの左膳のダークなイメージを一変させたコメディ作品、そして遺作となった『人情紙風船』は歌舞伎をベースに庶民たち生活苦を描いた群像悲劇だ。


今の観客にすれば特別なことではないかも知れないが、山中貞雄と、彼が所属していた気鋭の脚本家集団「鳴滝組」がやってのけた革新は、それまで歌舞伎などの形式性の強い古典芸能の影響下にあった時代劇に、現代劇と変わらないセリフや会話を取り入れたことだった。それゆえに山中貞雄や「鳴滝組」のメンバーが関わった一連の作品は、逆説的な意味合いから「髷(まげ)をつけた現代劇」と呼ばれることが多い。



丹下左膳餘話 百萬両の壺[4Kデジタル復元・最長版]©日活


例えば『丹下左膳餘話 百萬両の壺』の冒頭は、タイトルにもなっている「百萬両の壺」にまつわるお殿様と家臣のいささか堅苦しい会話で始まる。ところが「壺」に百万両の価値があるとは知らないお殿様の弟と妻女の場面に移ると、現代と変わらないトボけた夫婦の会話に切り替わるのだ。その瞬間に、この映画がコメディだとわかるネタにもなっている。


軽妙で、テンポがよく、リズミカルな山中貞雄の資質は、『丹下左膳餘話 百萬両の壺』の随所に現れている。本作を傑作だろうと身構えて観て肩透かしを食らうのは、そういう“お勉強”的な見方をすぐに忘れてしまうくらい、本作が現代的なユーモアにあふれたエンターテインメントだから。この作品に当てはまる「軽妙」という言葉は、作品が軽いのではなく、いかに面白い映画であるかを示している最大限の褒め言葉なのである。



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