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伝説の映画が復活!4K修復のマジックとは? 第33回東京国際映画祭「日本映画クラシックス」【CINEMORE ACADEMY Vol.10】
名作群が永遠に失われる危機を回避できるか?
東京国際映画祭のスタッフで日本映画クラシックスを担当する田中文人氏に話を伺ったところ、今回の山中貞雄作品の修復が実現するまでには、数々の難関を越え、紆余曲折をくぐり抜ける必要があったという。
日本映画クラシックスでは、同部門が始まった2015年から4K修復版の上映に取り組んでいるが、修復にかかる費用の捻出は容易ではない。例えば東宝なら黒澤明、松竹なら小津安二郎レベルの監督ならば、文化遺産の保存の名目もあって映画会社の主導で修復されることもあるのだが、旧作の復刻に積極的に取り組む映画会社は少ない。ビジネス的な観点で考えると、興行やソフトの売上があまり見込めないからだ。
今回の山中貞雄作品の修復は、後に海外でのテレビ放送を前提として国際交流基金の協力を得られ、東京国際映画祭のワールドプレミアが可能となり、最終的には国際交流基金と各映画会社の共同事業として実現にこぎつけたという。筆者にしてみれば、山中貞雄クラスの監督がこれまで本格的に修復されていなかったことに驚いてしまうのだが、視点を変えれば、有名無名に関わらず、膨大な数の日本映画の古典的名作が、フィルムの劣化にさらされて放置されている現実があるということだ。こうして4K修復版が日の目を見ることになった山中貞雄は、実は幸運な存在なのである。
日本国内で映画の保存と修復に取り組んでいる公的な機関は国立映画アーカイブしかなく、今回のように映画祭主導の修復プロジェクトが果たす役割は大きい。一方で世界に目を向けると、世界最強の映画修復アーカイブは、映画監督のマーティン・スコセッシが設立した映画保存団体「フィルム・ファンデーション」なのだという。
無法松の一生[4Kデジタル修復版] ©KADOKAWA1943
フィルム・ファンデーションの活動については、「スコセッシ監督が世界中で営業して回っているようなもの」と田中氏は説明する。実際、フィルム・ファンデーションは高級ブランドのグッチとコラボするなど、映画修復のアカデミックなイメージを覆す活動を展開している。フィルム・ファンデーションは日本映画の修復にも前向きで、今年の8月に開催されたヴェネチア国際映画祭では、稲垣浩監督の『無法松の一生』の4Kデジタル修復版を世界で初めてお披露目した。
そして今回の日本映画クラシックでは、その4K修復された『無法松の一生』も山中貞雄の三作品と一緒に上映される。田中氏によると、稲垣浩の『無法松の一生』は権利元のKADOKAWAから上映話を持ち込まれたことがまるで天啓に思えるほどに、今回の特集企画にはうってつけの作品だった。