2023.11.13
『ツィゴイネルワイゼン』あらすじ
昭和初期。青地豊二郎と無頼の友人・中砂糺は、陸軍士官学校で同僚の教官だった間柄。青地は中砂の結婚相手、園を見て驚く。中砂と青地が数年前に会った芸者、小稲とうりふたつだった。いつしか青地は現実と幻想の中で惑わされていく。そして自分の妻が中砂に誘惑され、惹かれているという疑念にとりつかれる。
Index
生粋の前衛、ナチュラル・ボーン・パンクス
『港の乾杯 勝利をわが手に』(56)で監督デビューを果たした時から、鈴木清順は会社から「よく分からない」と叱られていたという。イマジナリーラインは平気で無視するし、説明カットはないし、観客を混乱させる映画ばかり作っていたからだ。だが「映画文法を無視することで脱構築する」みたいな、実験精神に富んでいた訳ではない。本人は至極真面目に娯楽映画を撮っているつもりなのに、結果的にアバンギャルドになってしまう。生粋の前衛。ナチュラル・ボーン・パンクス。鈴木清順は最初から鈴木清順だった。
その後も、『関東無宿』(63)、『刺青一代』(65)、『東京流れ者』(66)、『けんかえれじい』(66)といったプログラム・ピクチャーを次々と発表。青春映画あり、文芸映画あり、アクション映画あり、サスペンス映画あり、任侠映画ありと、そのジャンルは多種多様を極めた。40本目に制作した『殺しの烙印』(67)は、当時隆盛を誇っていた日活無国籍アクション。“エースのジョー”こと宍戸錠を主演に迎えたこの作品もまた、「殺し屋ランキングが発表される世界で、殺しのプロフェッショナルたちがシノギを削る」という意味不明なストーリー。
今でこそ、ジム・ジャームッシュがこの映画にオマージュを捧げた『ゴースト・ドッグ』(99)を発表するなど、世界の映画人に影響を与えたカルト映画として知られているが、宍戸錠演じる主人公が炊飯器で米を炊く匂いに恍惚とするような、謎描写のオンパレードに日活社長の堀久作が激怒。「訳の分からない映画をつくる」という物凄い理由で、鈴木は日活を解雇されてしまう。
『ツィゴイネルワイゼン』4Kデジタル完全修復版
その後はCMやテレビの仕事をしながら糊口をしのぎ、『悲愁物語』(77)でおよそ10年ぶりに劇場用映画にカムバック。そんな矢先に、鈴木清順はプロデューサーの荒戸源次郎と運命的な出会いを果たす。鈴木本人のコメントを抜粋しよう。
「この映画の企画が立ち上がった経緯というのは」
「あれはね、代田橋の友達の家に行こうとブラブラ歩いてたら、たまたま向こうから車がやって来て、そこに知り合いのプロデューサー の荒戸(源次郎)さんが乗っていてね。鈴木さん映画を作りませんかって話になってね」
「いきなりですか」
「藪から棒に言われて、近所の喫茶店に入ってね、五千万円あるから、その予算内で出来る題材ならば全てお任せします、と。それが始まり」(*1)
車に乗っていた人物に突然声をかけられ、金があるから映画を撮ろうと誘われるって、話がブッ飛びすぎだろ。だがこの摩訶不思議な会合によって、温めていた『ツィゴイネルワイゼン』(80)の企画がスタート。その後『陽炎座』(81)、『夢二』(91)と続く浪漫三部作の嚆矢となる。