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『軽蔑』ゴダール史上もっとも美しく、もっとも切ないラブストーリー
『軽蔑』あらすじ
作家ポールは、フリッツ・ラングが監督する映画の脚本の修正を依頼される。自身と愛する妻カミーユの生活のために依頼を引き受ける一方で、ポールに脚本の修正を依頼したプロデューサーはカミーユに関心を寄せていた。すると突然――愛を囁き合っていた前日までと態度や言動を変えるカミーユ。彼女を問い詰めるポールだが、核心に迫ることはできない。不穏な空気のまま撮影場所のカプリ島を訪れた彼らは、決定的な瞬間を迎えることになる。
昨年惜しまれつつ世を去ったフランスの巨匠ジャン=リュック・ゴダールの名作のひとつに挙げられる『軽蔑』(63)。今年のカンヌ国際映画祭クラシック部門では、製作60周年を記念した4Kレストア版が上映されたが、フィルムの欠陥を補正したこの最新バージョンが、日本でもいよいよ劇場公開される。個人的にも、これは嬉しい。
風光明媚なイタリアで撮影した映像の美しさは、確かに魅力的だ。しかし、本作の魅力はそれだけではない。生活費のために映画の脚本の仕事を引き受けたライター、ポール(ミシェル・ピコリ)が、米国人プロデューサー、ジェレミー(ジャック・パランス)に対して卑屈な態度をとったことから、美しい妻カミーユ(ブリジット・バルドー)に軽蔑され、そこに確かにあったはずの夫婦愛が一気に崩れていく……という物語は、どうしようもなく切ない。ゴダールには珍しい、悲しいラブストーリーでもある。
『軽蔑』予告
筆者は1990年代にリバイバル上映された際に、本作を初めて見たが、シネマスコープのスクリーンいっぱいに広がる光景に、ひたすら圧倒された。それは『勝手にしやがれ』(60)や『気狂いピエロ』(65)といった、ゴダールの代表作とは、また違う映画体験だった。それが何だったのかを、本稿では検証していこうと思う。
Index
ハリウッド的な映画プロデューサーは、いけ好かない人物!?
まず、『軽蔑』はゴダールが製作体制において商業用映画に接近した初めての作品でもある。接近したとはいえ、自身のビジョンに忠実であるというヌーヴェルヴァーグの基本姿勢は失われてはいないが、少なくとも当時の大スターを主演に起用したのは彼にとって初めてのことだった。ヒロインは、『素直な悪女』(56)でブレイクして以来、フランスのセックスシンボルとして君臨していたブリジット・バルドー。全裸で寝そべる姿をしばし披露した彼女の出演料は、本作の製作費の半分におよんだと言われている。
『軽蔑 60周年4Kレストア版』© 1963 STUDIOCANAL - Compagnia Cinematografica Champion S.P.A. - Tous Droits réservés
本作のプロデューサーのひとりにジョセフ・E・レヴィンというアメリカ人がいたが、ゴダールがハリウッドの映画人と組んだのは、これが最初で最後。レヴィンは世界マーケットに本作を売り出すために、バルドーのヌードシーンを求めた。商業映画に批判的なゴダールは、これを受け入れるも煽情的な描写は避け、男優と絡ませることもなかった。さらにジェレミーのキャラクターにレヴィンの人物像を投影し、男尊女卑的な考え方を持つ、好感を抱けない男として描いている。
ジェレミーを演じたパランスは、当時ハリウッドで悪役として活躍していた名バイプレーヤーで、『シェーン』(53)でアカデミー助演男優賞にノミネートされ、アメリカではすでに名声を手にしていた。とはいえ、パランスはそれに満足せず、ヨーロッパの低予算作品にも積極的に出演してキャリアを重ねる。後に彼は『シティ・スリッカーズ』(91)で、アカデミー助演男優賞を受賞するが、それは長年の俳優としてのキャリアと姿勢に対する映画人のリスペクトのあらわれだったと思えなくもない。