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『気狂いピエロ』1960年代ゴダールを象徴する再会と決別の物語

(c)Photofest / Getty Images

『気狂いピエロ』1960年代ゴダールを象徴する再会と決別の物語

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『気狂いピエロ』あらすじ

裕福な妻との生活に退屈したフェルディナンは、ある日、昔の恋人マリアンヌと再会し愛をたしかめあう。だが思わぬ殺人事件に巻き込まれたフェルディナンは、マリアンヌと共にパリから南仏へと逃亡。当初は二人きりの逃亡生活に満足していたマリアンヌだが、次第に不満の声をあげ始め、二人は武器の密輸をしているというマリアンヌの兄を探しにいくことにするが……。


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原作となったライオネル・ホワイトの犯罪小説「気狂いピエロ」



 画面のすべてが、赤、青、黄によって彩られた映画。ジャン=リュック・ゴダールの長編十作目『気狂いピエロ』(65)は、その色の鮮やかさに反して、どこまでも暗く陰惨な映画だ。物語自体は、ゴダールの長編第一作『勝手にしやがれ』(60)とよく似た、罪をおかした男女の逃避行もの。殺人が起き、車で逃走した恋人たちは、強盗や偽装工作を重ねながら南仏へと向かう。ただし、『気狂いピエロ』で人をあっさりと殺すのは、ジャン=ポール・ベルモンドではなくアンナ・カリーナのほうで、男は女に誘われるまま道を転がり落ちる。画面の中で流れる血の量や死体の数は、ベルモンドが車泥棒と警官殺しをする『勝手にしやがれ』より断然に多く、死への気配が全編に漂っている。


 『気狂いピエロ』には、原作となった犯罪小説がある。ゴダールが亡くなる数ヶ月前の2022年5月に、邦訳が初めて刊行されたアメリカの小説家ライオネル・ホワイトの「気狂いピエロ」(原題:Obsession)。ライオネル・ホワイトは、スタンリー・キューブリックの『現金に体を張れ』(56)の原作をはじめ、犯罪小説を多く手がけた作家で、小説「気狂いピエロ」は1962年にアメリカで刊行された。1965年につくられた映画には原作のクレジットがついていないが、実際に小説を読むと、話の展開の仕方、登場人物のファッションといった細かい部分まで、ゴダールがこの小説からさまざまな要素を参照しているのがわかる。


『気狂いピエロ』予告


 小説版「気狂いピエロ」の主人公の名前はコンラッド・マッデン。失業中の彼は、妻に連れられ知人のパーティーへ出かけた帰り、子供たちのために雇ったベビシッター、アリスン(アリー)・オコナーを家に送るが、彼女のアパートで殺人事件に巻き込まれる。殺人で得た大金を手に、二人は駆け落ち。身分を偽り各地を転々とするが、アリーの裏切りにより、離れ離れになる。ようやく再会したマッデンに、アリーは悪びれることもなく自分の「兄」を紹介、マッデンは兄妹が企てた強盗に加担することに。


 映画では、コンラッド・マッデンがフェルディナン=ピエロ(ジャン=ポール・ベルモンド)に、アリスン・オコナーがマリアンヌ(アンナ・カリーナ)に変わり、舞台はアメリカからフランスに移された。おおまかなストーリーは小説そのままだが、原作は10代の少女への38歳の中年男の妄執という、ナボコフの「ロリータ」風のストーリーだった。ゴダールは当初イギリス出身のリチャード・バートンと当時20歳前後だったシルヴィー・ヴァルタンを主人公に構想していたが、実際にはジャン=ポール・ベルモンドとアンナ・カリーナが主演となり、おかげで主人公たちの年齢差は気にならなくなった。



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