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『気狂いピエロ』1960年代ゴダールを象徴する再会と決別の物語

(c)Photofest / Getty Images

『気狂いピエロ』1960年代ゴダールを象徴する再会と決別の物語

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かつて愛した者たちとの再会と決別



 ここには、狂おしいほどの「愛」があることも忘れてはいけない。原作では、男が夢中になるのはあくまで女とのセックスでしかなかったが、映画で彼らの逃避行を決定づけるのは間違いなく愛だ。実際、アラン・ベルガラの「六〇年代ゴダール」に収められた『気狂いピエロ』の初期段階でのシナリオには、フェルディナンが最初にマリアンヌを車で送る場面で、二人がたしかに愛しあっていることが明記されている。ただしその愛は、死という終幕に向かってひた走る。


 この映画の撮影前、ゴダールとアンナ・カリーナはすでに私生活でのパートナー関係を解消し、それぞれに別の道を歩き始めていた。アンナ・カリーナが出演したゴダール映画は、次々作の『メイド・イン・USA』(66)が最後となるが、「カリーナ時代」の実質的な終わりはやはり『気狂いピエロ』だったといえるだろう。『女は女である』以来のゴダール映画への出演となったジャン=ポール・ベルモンドもこれ以降、共に仕事をすることはなかった。こうして振り返ると、『気狂いピエロ』はあたかも、かつて愛した者たちと完全に決別するための映画だったかのようだ。



『気狂いピエロ』(c)Photofest / Getty Images


 以後のゴダールは、ジャン=ピエール・レオーや、シャンタル・ゴヤ、マリナ・ヴラディ、そして後に結婚するアンヌ・ヴィアゼムスキーといった新しい俳優たちと協働していく。さらに数年後に、商業映画に別れを告げ、ゴダールは政治の季節へと突入することになる。


参考文献:

ライオネル・ホワイト『気狂いピエロ』矢口誠訳、2022年、新潮社

アラン・ベルガラ『六〇年代ゴダール 神話と現場』奥村照夫訳、2012年、筑摩書房

山田宏一『増補新版 ゴダール、わがアンナ・カリーナ時代』2020年、ワイズ出版



取材・文:月永理絵

映画ライター、編集者。雑誌『映画横丁』編集人。『朝日新聞』『メトロポリターナ』『週刊文春』『i-D JAPAN』等で映画評やコラム、取材記事を執筆。〈映画酒場編集室〉名義で書籍、映画パンフレットの編集も手がける。WEB番組「活弁シネマ倶楽部」でMCを担当中。 eigasakaba.net



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