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『気狂いピエロ』1960年代ゴダールを象徴する再会と決別の物語

(c)Photofest / Getty Images

『気狂いピエロ』1960年代ゴダールを象徴する再会と決別の物語

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原作小説との数々の相似点



 変更点はいろいろあるものの、それ以上に原作に忠実な箇所が多いことに驚かされる。映画では謎の展開と思えていた場面が、しっかりとしたストーリーが下敷きになっていたのがよくわかるのだ。


 たとえば、パーティーの後、フェルディナンが車でマリアンヌを家に送り届ける場面。映画では、夜の車中で語り合う二人をフロントガラス越しに捉えたあと、次の場面ではすでに二人は朝の光に満ちたアパートで談笑している。バスローブ姿のマリアンヌが鍋を持ってうろうろしているさなか、ふとカメラが下を向くと、そこには首に鋏を刺したままベッドに横たわる血だらけの男の姿がある。さらにフェルディナンの友人フランクがやってきたため、二人は慌てふためき、最後にマリアンヌがフランクの頭に思い切りガラス瓶を叩きつける。そして車で駆けつけた謎の二人組を尻目に、フェルディナンたちはアパートから逃亡する。


 この場面を見ても、観客はいったい何が起こったのかまったくわからないはずだ。ベッドに横たわった死体は誰なのか? 誰がいつ殺したのか? なぜ二人はフランクを殴り逃げなければならなかったのか? 多くの謎が残されたまま、マリアンヌとフェルディナンの断片的なオフの声によって、彼らが殺人者であり南仏へと向かう逃亡者であることだけが語られる。



『気狂いピエロ』(c)Photofest / Getty Images


 「話は……」「複雑」とマリアンヌたちは何度もつぶやくが、小説を読めば、この場面の背景は複雑でもなんでもない。マッデン/フェルディナンが泥酔した後、アリー/マリアンヌの恋人が突然帰宅し喧嘩になったため、彼女が慌てて刺し殺した。その死体を、後からやってきたマッデンの友人でアリーのもうひとりの愛人ネッド/フランクに見られたため、仕方なく鈍器で殴り気絶させた。アリーは、この殺人と殺人未遂はすべてマッデンを守るためだったと主張するが、それは言い逃れにすぎない。ギャングである恋人が持っていた大金をせしめるためだったのだろうと示唆される。


 この最初の殺人の経緯がはっきりすれば、その後の展開がすんなりと理解できるはずだ。二人は死んだ男のギャング仲間から追われる身となり、逃亡を続ける。女の求めるものは金と我が身の安全だけ。男はそんな彼女の言いなりになるばかり。ゴダールらしいぶつ切りの映像によって物語を見失いがちだが、『気狂いピエロ』は本来、ごくシンプルでわかりやすい逃亡劇なのだ。




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