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『マックスとリリー』溢れるお互いへの哀れみ、心の深淵を覗き見てしまった二人

© 1971 STUDIOCANAL

『マックスとリリー』溢れるお互いへの哀れみ、心の深淵を覗き見てしまった二人

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『マックスとリリー』あらすじ

証拠不十分を理由に被告人を刑務所に送れなかったマックスには、判事から刑事に転職した過去がある。マックスはこの経験から現行犯逮捕に異様なこだわりを持っていた。現行犯逮捕が達成できるなら、もはや犯人は誰でもいい。やがて彼は、あらゆる手段を使って犯罪を作り上げることを夢想するようになっていた。そんなある日、マックスは旧友のアベルと再会する。アベルは仲間と共に、銅線の売買や盗難車の修理で生計を立てていた。犯罪者ではあるが、彼らのコミュニティに凶悪犯罪の影は感じられない。そこでマックスはアベルと共同生活を送る恋人リリーに近づき、彼らが強盗を謀るように画策するのだが…。


Index


完全犯罪への夢想



 「どんな職業であれ、ギャングも警官も神父もそれぞれプロの仕事だ」


 証拠不十分を理由に被告人を刑務所に送れなかったマックス(ミシェル・ピコリ)には、判事から警官に転職した過去がある。マックスはこの経験から現行犯逮捕に異様なこだわりを持ち始める。マックスは警官という職業が果たすべき道義には何の関心もないように見える。彼の関心はあくまで現行犯逮捕を達成すること。それは過去への復讐であり、マックス以外に誰一人理解できない償いでもある。


 現行犯逮捕が達成できるものなら、マックスにとって犯人は誰でもいいのだ。ただし計画は周到でなければならない。マックスは富裕層出身で経済的には何一つ困っていない男だ。彼はあらゆる手段を使って犯罪を作り上げることを夢想する。自分の手は何一つ汚さずに。それは完全犯罪への夢想に似ている。つまり彼は完全に狂っている。



『マックスとリリー』© 1971 STUDIOCANAL


 マックスはナンテールの町にたむろするゴロツキを入念に調査する。銅線の売買や盗難車の修理で生計を立てているアベル(ベルナール・フレッソン)たちは、たしかに犯罪者ではあるが、彼らのコミュニティに凶悪犯罪の影は感じられない。アベルと共同生活を送る恋人リリー(ロミー・シュナイダー)はストリートで売春をしているが、アベルは彼女のポン引きではない。リリーは自分のために売春をしてお金を貯めている。マックスはリリーに近づくことで、遠回しにアベルを犯罪の道に誘っていく。


 マックスが遠くからスコープを覗いて、リリーたちの周辺調査をしていくシーンは、探偵映画的なスリルを放ちつつ、異様な光景でしかない。マックスには、『コレクター』(65)の主人公のような猟奇性の影が滲んでいる。リリーに対して自分の職業は銀行員だと偽るマックス。『コレクター』のフレディ(テレンス・スタンプ)が銀行に勤めていたのは何かの偶然だろうか?マックスはプロの警官であると同時に、プロの犯罪者になっていく。マックスがこのことにどこまで意識的なのか分からないところが、本作の怖さでもある。





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