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『太陽がいっぱい』太陽に背いた男トム・リプリーが身を滅ぼすまでのピカレスク・ロマン

(c)Photofest / Getty Images

『太陽がいっぱい』太陽に背いた男トム・リプリーが身を滅ぼすまでのピカレスク・ロマン

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※本記事は物語の結末に触れているため、映画をご覧になってから読むことをお勧めします。


『太陽がいっぱい』あらすじ

ローマの街角のカフェで話をする二人の青年、大富豪の息子フィリップと彼の父親にアメリカへ連れ戻すよう頼まれた貧しい青年トム。トムはフィリップの父親から謝礼金をもらってはいるものの、フィリップは帰る気配をいっこうに見せない。ある日、彼らはフィリップの恋人マルジュとともにヨットで沖へ出るが、フィリップから邪険に扱われるトムの心に、やがて小さな殺意が芽生え、財産を奪い取る完全犯罪を思いつく。


Index


アンチ・ヒーローの代名詞、トム・リプリー



 冷静に考えると、『太陽がいっぱい』(60)ってヘンな邦題だ。『照りつける太陽』とか『炎天下』みたいなタイトルだったら分かるけど、原題の『Plein soleil』をまんま直訳したような表現ではないか。でもこのヘンなタイトルが、作品に奇妙なニュアンスを付与している。個人的には秀逸なタイトルだと思う。


 今さらこの超世界的名作を紹介するのも気がひけるが、まずは概要を簡単に説明しておこう。主役のトム・リプリーを演じるのは、この映画をきっかけに国際的な名声を得ることになるアラン・ドロン。大富豪のドラ息子フィリップ役にモーリス・ロネ、その恋人マルジュ役にマリー・ラフォレ。監督は『鉄格子の彼方』(49)でカンヌ国際映画祭監督賞を受賞し、『禁じられた遊び』(52)がヴェネツィア国際映画祭金獅子賞に輝いた名匠ルネ・クレマン。撮影監督は、フランソワ・トリュフォーやルイ・マルなどのヌーヴェルヴァーグ作品を支えたアンリ・ドカエ。そして音楽を担当しているのは、『8 1/2』(63)や『ゴッドファーザー』(72)で知られるニーノ・ロータだ。鉄壁すぎる布陣である。


 原作は、パトリシア・ハイスミスの「The Talented Mr. Ripley(才能あるリプリー氏)」。トム・リプリーを主人公とした「トム・リプリー」シリーズの1作目で、第2作「Ripley Under Ground」、第3作「Ripley's Game」、第4作「The Boy Who Followed Ripley」、第5作「Ripley Under Water」と続いている。


『太陽がいっぱい』予告


 『リプリー』(99)というタイトルでアンソニー・ミンゲラ監督、マット・デイモン主演でリメイクされていることは有名だが、それ以外にも「トム・リプリー」シリーズは数多く映像化されている。第3作「Ripley's Game」は、『アメリカの友人』(77)というタイトルでヴィム・ヴェンダース監督、デニス・ホッパー主演で映画化。さらに『リプリーズ・ゲーム』(02)というタイトルで、リリアーナ・カヴァーニ監督、ジョン・マルコヴィッチ主演でリメイクされている。


 また、アメリカの有料チャンネルShowtimeが、『Ripley』というドラマ・シリーズの製作を発表(現時点でまだ放送開始時期は不明)。監督・脚本を務めるのは、『シンドラーのリスト』(93)や『アイリッシュマン』(19)の脚本で知られるスティーヴン・ザイリアンで、主演は『SHERLOCK』のジム・モリアーティ役で知られるアンドリュー・スコット。世間的にはアラン・ドロンのイメージが強すぎるが、トム・リプリーというキャラクターは、デニス・ホッパー、ジョン・マルコヴィッチ、アンドリュー・スコットという超曲者アクターも演じているアンチ・ヒーローの代名詞なのだ。


 『太陽がいっぱい』は公開されるやいなや、大ヒットを記録。そして映画を観た者は皆、アラン・ドロン演じるトム・リプリーというキャラクターの魅力に取り憑かれてしまう。かの著名な映画評論家のロジャー・イーバートも、コラムでこんな絶賛評を寄せている。


 「リプリーは知性と狡猾さを兼ね備えた犯罪者で、殺人を犯しても逃げ切る。彼は魅力的で文学的であり、そして怪物だ」(https://www.rogerebert.com/reviews/purple-noon-1960 より引用)




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