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『太陽がいっぱい』太陽に背いた男トム・リプリーが身を滅ぼすまでのピカレスク・ロマン

(c)Photofest / Getty Images

『太陽がいっぱい』太陽に背いた男トム・リプリーが身を滅ぼすまでのピカレスク・ロマン

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Ripley(リプリー)=Replay(リプレイ)



 実像を持たないトム・リプリーは、フィリップという別の人格を手に入れることで、新しく人生を再演しようとする。Ripleyというスペルが、Replay(再演する、再現する)と激似なのは偶然ではないだろう。少なくとも筆者にとってこの作品は、“富まざる者が富める者にメタモルフォーゼしたい”という、変身願望の物語である。


 リプリーが「グリーンリーフ」というサインをひたすら練習するシーンが印象的だが、まさにコレは変身願望を実直になぞったものと言えるだろう。ハイスミスの小説では一文で片付けられているこの描写を、映画では約20ショットを費やして丹念に描くのだ。


 興味深いインタビュー記事がある。監督のルネ・クレマンによれば、アラン・ドロンがフィリップ、モーリス・ロネがリプリーを演じる予定だったというのだ。



『太陽がいっぱい』(c)Photofest / Getty Images


 「アラン・ドロンは当時まだスターではなかったし、プロデューサーを誘惑するようなこともしていなかった。フィリップ役が空いたとき、アラン・ドロンの代理人であるジョルジュ・ボームが私に連絡してきたんだ。私はミシェル・ボワロン監督の『お嬢さん、お手やわらかに!』(59)を観に行った。正直、アラン・ドロンはこの作品ではあまり目立っていなかったけどね。しかし、ある意味では興味をそそられるものがあったよ。ジョルジュ・ボームがアラン・ドロンと一緒に私に会いに来た。そこでジョルジュは、モーリス・ロネとアラン・ドロンの役を入れ替えて、二人の俳優に合わせて調整することを思いついたんだ。フィリップの役はモーリス・ロネが、リプリーの役はアラン・ドロンが演じるのがいいだろう、ということになったんだ」( ルネ・クレマン インタビュー記事より引用)


 映画の中でリプリーはフィリップという人格にスイッチしたが、キャスティングにおいてもリプリー役とフィリップ役はスイッチされていたのである。




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