ロミー・シュナイダーとミシェル・ピコリ
マックスが常軌を逸した人物であることをあからさまに露呈するシーンがある。マックスはリリーを呼ぶために部屋を借りる。リリーが望む以上の金銭を払いながら、彼女の体には一切手を出さないマックス。リリーは浴槽を借りる。このときマックスはカメラを手に取り、入浴中のリリーの写真を撮り始める。帽子を被り、モデルのようにポージングしていくリリーをマックスは連写していく。浴槽に浸りながら「ラルジャン!ラルジャン!(お金!お金!)」と叫ぶリリーのやけっぱちな無邪気さが魅力的なシーン。本作で最も喜びに溢れた開放的なシーンだが、同時にマックスの変態性を露出してもいる。そしてリリーの写真をいつの間にか部屋の壁に飾っているマックスの心の中に、リリーに対する屈折した、しかし物言わぬ愛情がうかがえる。
ロミー・シュナイダーとミシェル・ピコリは、クロード・ソーテの映画も含めて何度も共演している。二人の間には映画の中でしか生まれない特別なケミストリーがあると感じずにはいられない。マルグリット・デュラスが脚本に名を連ねたジャン・シャポー監督『La Voleuse』(66)での初共演から、二人の特別な結びつきはフィルモグラフィーを通して続くことになる。70年代の傑作群によりロミー・シュナイダーの伝説を決定付けた張本人ともいえるクロード・ソーテは、二人の関係を「兄と妹のようだった」と評している。*1
『マックスとリリー』© 1971 STUDIOCANAL
「私たちは何かを交感することができる二重奏者(デュオ)で、彼女と一緒だとカップルを構成しているという感じがしないんだ。私たちは互いに、相手に変身することができる。その証拠に、私たちは全部しまいまで話したためしがない」(ミシェル・ピコリ)*2
マックスの職業をクイズにする二人のやり取りで、当てずっぽうにいろいろな職業を並べていくリリーの言葉の中に、実は「警官」という正解が紛れ込んでいるのが面白い。そして「ギャングも警官も神父もそれぞれプロの仕事だ」というマックスの言葉への返答であるかのように、売春も立派な仕事であることを捨て台詞として去っていくリリーに、マックスは虚を突かれてしまう。マックスとリリーの間には、欠落を補完し合うような関係性が生まれていく。