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『軽蔑』ゴダール史上もっとも美しく、もっとも切ないラブストーリー

© 1963 STUDIOCANAL - Compagnia Cinematografica Champion S.P.A. - Tous Droits réservés

『軽蔑』ゴダール史上もっとも美しく、もっとも切ないラブストーリー

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主体性を失ってしまったダメ男の悲哀



 肝心の主人公ポールを演じたミシェル・ピコリも、フィルムノワールの分野で頭角を現わした売り出し中のスターだった。『勝手にしやがれ』でブレイクしたジャン=ポール・ベルモンドとは前年の『いぬ』(62)で共演を果たしている。しかし、『軽蔑』でピコリがふんしたポールは、『勝手にしやがれ』『気狂いピエロ』でベルモンドが扮した主人公のニヒルなかっこよさとは無縁だ。


 良好と思われたポールとカミーユの夫婦仲は、仕事先でジェレミーと出会ったことによりヒビが入り始める。ジェレミーに媚びを売り、その女性アシスタントに好意を示すポールの態度。主体性のない彼に幻滅しているカミーユの不機嫌。この時点では、まだ愛を取り戻すチャンスはあった。しかし映画の中盤となる、自宅に戻ってからの約30分はポールとカミーユの口論が繰り広げられ、売り言葉に買い言葉が重なり、状況はどんどん悪くなる。



『軽蔑 60周年4Kレストア版』© 1963 STUDIOCANAL - Compagnia Cinematografica Champion S.P.A. - Tous Droits réservés


 ざっくりと言ってしまえば、ここでのポールはダメ男だ。カミーユが歩み寄りを見せたときに気の利いた言葉を返せず、黙々とタイプライターを打って仕事をする。どこかの時点で、関係修復の機会はあった。しかし、それを考えることができるのは、ふたりを俯瞰して見ている観客だけなのだ。この頃のゴダールは『女は女である』(61)に主演した女優アンナ・カリーナとの結婚生活に行き詰っていたようで、本作ではアルベルト・モラヴィアの原作小説にそんな自身を投影して映画化したといわれている。



名匠へのオマージュとともに刻まれたゴダールの映画哲学



 ゴダールが本作に投影したのは恋愛観だけではない。映画作りの姿勢も、またしかり。劇中では古代ギリシャの叙事詩「オデュッセイア」に基づく映画が製作されているが、プロデューサーのジェレミーはアート指向のこの作品を気に入っていない。ラッシュを見て気に入ったのは、女優が全裸で泳いでいる場面だけ。彼がこの映画に欲しいのはセックスだ。色気のある映画は金になる。そのような作品に変えるために、ポールは脚本家として雇われるのである。


 ジェラルドを悩ませている映画監督に扮したのは、ドイツの名匠フリッツ・ラングで、本人役での出演となる。『ドクトル・マブゼ』(1922)や『メトロポリス』(26)、『』(31)などの傑作を母国で手がけた後、ナチスの台頭を避けて亡命し、ハリウッドで映画を撮り続けたレジェンド。1960年代には、なかば隠居状態だったが、当時のヌーヴェルヴァーグの俊英たちに愛されており、ゴダールの要請に応えて本作への出演へと至った。ちなみにゴダールはラングの助監督役として出演もしている。



『軽蔑 60周年4Kレストア版』© 1963 STUDIOCANAL - Compagnia Cinematografica Champion S.P.A. - Tous Droits réservés


 劇中のラングのキャラクターは、ゴダールの映画哲学を反映したような人物。ダンテの詩を引用して芸術論を語り、確固たるアーティスティックなビジョンを持ち、妥協を嫌う。言うまでもなく、ジェレミーの商業主義とは相容れない人物だ。また傲慢で横柄なジェレミーに対して、この監督は紳士的で、迷えるポールやカミーユに対してもさりげなく思いやりを示す。いわば本作の良心でもあるのだ。





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