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『サタデー・フィクション』オールスター映画の魅力、スターの誕生と消滅

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『サタデー・フィクション』オールスター映画の魅力、スターの誕生と消滅

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『サタデー・フィクション』あらすじ

1941年、日本軍の占領を免れた上海の英仏租界は、当時「孤島」と称されていた。魔都と呼ばれるこの上海では、日中欧の諜報部員が暗躍し、機密情報の行き交う緊迫したスパイ合戦が繰り広げられていた。日本が真珠湾攻撃をする7日前の12月1日、魔都上海に、人気女優のユー・ジンが現れる。新作の舞台「サタデー・フィクション」で主役を演じるためだ。一方、この大女優ユー・ジンには、幼い頃、フランスの諜報部員ヒューバートに孤児院から救われ、諜報部員として訓練を受けた過去があり、銃器の扱いに長けた「女スパイ」という裏の顔があった。そして2日後の12月3日、日本から海軍少佐の古谷三郎が海軍特務機関に属する梶原と共に、暗号更新のため上海にやってくる。ヒューバートはユー・ジンに告げる。「古谷の日本で亡くなった妻は君にそっくりだ」と。それは、古谷から太平洋戦争開戦の奇襲情報を得るためにフランス諜報部員が仕掛けた“マジックミラー計画”の始まりだった……。


Index


オールスター映画



 「観客やファンは彼女(スター)を見るため、劇場に直接足を運ばなければなりませんでした。インターネットで見ることなんて不可能でした。当時のスターの存在はとてもパワフルです。この映画は、その時代のスターであることの感覚を上手くとらえていると思います」(コン・リー)*


 スターを演じるのはスターでなければならないという鉄則。ロウ・イエ監督の『サタデー・フィクション』(19)で、コン・リーは1940年代の架空のスター、そしてスパイを演じている。チャン・イーモウ監督の傑作『紅いコーリャン』(87)で鮮烈なデビューを飾って以降、国際的に活躍するコン・リーには、中国に留まらずアジアの俳優を背負っているような覚悟とプライドを感じてきた。これは同じくチャン・イーモウ『初恋のきた道』(99)でスクリーンデビューを飾ったチャン・ツィイーにも感じることだ。本作でスターを演じるコン・リーには、『上海ルージュ』(95 監督:チャン・イーモウ)で演じた歌手のイメージが重なる。偉大なるコン・リー。余談だがレッド・ホット・チリ・ペッパーズにはコン・リーに捧げられた、その名も「コン・リー」という曲もある。



『サタデー・フィクション』©YINGFILMS


 オダギリジョー、中島歩、マーク・チャオ、パスカル・グレゴリー他、国際色豊かなキャストが揃った本作は、まさしくオールスター映画であり、オールスター映画ならではの輝きに溢れている。新境地でありながら、ロウ・イエのこれまでの映画作家としての歩みにおいて、間違いなく到達点といえる本作は、まず第一にすべてのキャスト陣の放つ“色気”がどうしようもなく魅力的だ。それぞれのキャラクターの登場シーンに、いちいちハッとさせられる(サングラスの似合う凄腕スナイパー梶原=中島歩!)。


 モノクロームの映像に映えるフォトジェニックなスターたち。本作では赤や緑によるステレオタイプな昔の上海のイメージを避け、白黒画面のグラデーションによって当時の上海を描いている。ゴミだらけのストリートの臭気さえ漂ってくるような、ロウ・イエ映画特有の空気、ブンブン振り回す手持ちカメラのスタイルもそのままに。白黒のグラデーションの中にあらゆるエモーション、官能が宿っていく。洞窟の中を歩いているような足音にさえも!


 1941年、日本軍の占領を免れ“孤島”と言われた上海の英仏租界。フランス側の諜報員フレデリック(パスカル・グレゴリー)は、ユー・ジン(コン・リー)のことを次のように評している。「彼女はどんな働きをしようとも、俳優でありひとりの女性なんだ」。『サタデー・フィクション』は“パフォーマンス”に関する映画であり、演技と実人生の間にある感情のグラデーション、力強さ、揺らぎ、そしてどうしようもなさを探求している。コン・リーの演じるユー・ジンが大スターであるだけでなく、スパイという完璧な演技が要求される職業であることが、官能的なスリルを生んでいく。


* The Hollywood Reporter [Gong Li Celebrates Global Comeback With ‘Saturday Fiction’]





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