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『サタデー・フィクション』オールスター映画の魅力、スターの誕生と消滅

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『サタデー・フィクション』オールスター映画の魅力、スターの誕生と消滅

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愛と傷の関係



 スモーキーなネオ・ノワールの世界に雨が降る。長編デビュー作『デッド・エンド 最後の恋人』(94)以来、ロウ・イエの映画では作家の刻印であるかのように大粒の雨が降る。カオスの磁場を醸成していく雨。『サタデー・フィクション』においても、唐突な銃撃戦への伏線であるかのように大粒の雨が降りしきる。ロウ・イエの映画と銃撃戦は実のところ相性がいい。『スプリング・フィーバー』(09)の車のシーンにおける、三人の登場人物それぞれの絶妙なる視線の向かせ方を始め、ロウ・イエの映画に度々感じてきた“型”が本作で炸裂している。思い返せばロウ・イエは人物が並んで歩くのを撮るのが抜群に上手い映画作家だ。オールスター映画の本作では、そういったロウ・イエ流の“型”の美しさがスターの魅力と相乗効果をあげている。



『サタデー・フィクション』©YINGFILMS


 登場人物と同じくらい、上海という都市、路地の風景も魅力的だ。消えていく風景を映画に記録することでつなぎ止めている。ロウ・イエの映画において、都市はそこに生きる全ての人のものだ。現代の上海を撮ったドキュメンタリー『In Shanghai』(01)で、富裕層、中流階級、ホームレスを分け隔てなく並列していた精神は変わらない。都市空間、ある世代、そして愛の消滅を映画によってつなぎ止めることこそ、ロウ・イエという映画作家の根底にあるスピリットなのだろう。大傑作『天安門、恋人たち』(06)の言葉を思い出す。


 「愛は心に残る傷で、傷が治れば愛は消える」(『天安門、恋人たち』)


 舞台や演技についての映画として始まった『サタデー・フィクション』は、ユー・ジンのファンを名乗るもう一人の女性とのサブプロットを通して“劇映画”として見事に完成される。暴力が吹き荒れる外の世界では、間もなく太平洋戦争が始まろうとしている。租界地域だった“孤島”は消滅に向かっている。「愛は心に残る傷で、傷が治れば愛は消える」。この言葉と共鳴する言葉が本作に現れるとき、1941年の上海と、ある世代、ある愛の誕生と消滅を知る。誕生と消滅が同時に最上の瞬間としてモノクロームの画面に焼き付けられ昇華される。イメージの誕生と消滅。それはスクリーンや舞台でしか会えなかったスターが消滅していく時代の変化と重なっている。ここに本作がオールスター映画として撮られた理由がある。ロウ・イエの最高傑作の誕生を心から祝福したい。



文:宮代大嗣(maplecat-eve)

映画批評。「レオス・カラックス 映画を彷徨うひと」、ユリイカ「ウェス・アンダーソン特集」、リアルサウンド、装苑、otocoto、松本俊夫特集パンフレット等に論評を寄稿。



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作品情報を見る



『サタデー・フィクション』

11月3日(金・祝)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、

シネ・リーブル池袋、アップリンク吉祥寺ほかにて全国順次公開

配給:アップリンク

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