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『小さき麦の花』麦穂色の絵巻物、名もなきロバと歩む歌

©2022 Qizi Films Limited, Beijing J.Q. Spring Pictures Company Limited. All Rights Reserved.

『小さき麦の花』麦穂色の絵巻物、名もなきロバと歩む歌

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『小さき麦の花』あらすじ

地域でもっとも貧しい農民のヨウティエ(ウー・レンリン)と持病を抱えるクイイン(ハイ・チン)。それぞれの家族の思惑によって、二人は半ば強引に結ばれる。二人の結婚写真に表情はない。しかしどこまでも続くような砂丘で揚げ菓子の麻花(マーホア)を二人で食べたとき、二人ぼっちの世界は瞬く間に完成する。フレームの中にヨウティエとクイインだけが映るとき、二人は外の世界と完全に切り離されている。そしてこうなる予感は、出会いの瞬間からあった。


Index


世界に二人ぼっち



 進歩の波に取り残された二人。むしろ敢えてその波に乗らないことを選んだ二人。リー・ルイジュン監督が『小さき麦の花』(22)で描くのは、「人生において前に進むとはどういうことなのか?」への問いであり、「そもそも人生とは一体どこにあるものなのか?」ということへの探求だ。私たちが生きた時間はどこへ行ってしまうのか?身体の消滅と共に何もかもが消え去ってしまうものなのか?


 地域でもっとも貧しい農民のヨウティエ(ウー・レンリン)と持病を抱えるクイイン(ハイ・チン)。それぞれの家族の思惑によって、二人は半ば強引に結ばれる。二人の結婚写真に表情はない。しかしどこまでも続くような砂丘で揚げ菓子の麻花(マーホア)を二人で食べたとき、二人ぼっちの世界は瞬く間に完成する。フレームの中にヨウティエとクイインだけが映るとき、二人は外の世界と完全に切り離されている。そしてこうなる予感は、出会いの瞬間からあった。


『小さき麦の花』予告


 本作は粉雪の舞う田舎の風景から始まり、四つ季節を描いていく。絵巻物のように移り変わる生活。二人が出会うのは真冬の寒色の風景だが、共同生活のプロセスを経ていく内に、やがて画面は、麦穂の色、二人を包み込むような暖色の色調へと変わっていく。寒空の中、ロバを労わるヨウティエ。ヨウティエの姿を見たクイインは、彼が自分に危害を加えることのない人物であることをすぐに理解する。失禁をはじめ様々な持病を抱える彼女にとって、自分に脅威を与えない人物がこの世界にいるという発見は、どれほどの救いになったことだろう。そしてヨウティエはクイインのまなざしによって、彼女と同じことを感じ取る。無口なヨウティエもまた、適合性のなさによって地域の住民からバカにされている。いわばこの世界から追放されている二人。脅威のない相手を見つけることは、二人にとって困難な状況だ。


 地平線の果てまで続く砂丘で食事をとる、どこかSF的な風景ともいえる「世界に二人ぼっち」のシーンは、どんな世界にも詩が生まれることを示している。




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