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『象は静かに座っている』“声無き悲鳴”を映し出す、孤高の234分

(c)Ms. CHU Yanhua and Mr. HU Yongzhen

『象は静かに座っている』“声無き悲鳴”を映し出す、孤高の234分

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※2019年11月記事掲載時の情報です。

※本記事は物語の核心に触れているため、映画をご覧になってから読むことをお勧めします。


『象は静かに座っている』あらすじ

朝。

<チェン>

親友の妻の部屋で目覚めたチェン(チャン・ユー)。

一服していると、不意に親友が扉を叩いた。

「誰かいるのか」

隅に隠れやり過ごそうとするが、扉を開けて親友が入って来る。

「お前だったのか」

チェンを一瞥し、親友は目の前で窓から飛び降りた。

<ジン>

窓際の狭い一畳の空間で寝起きする老人ジン(リー・ツォンシー)。

「文教地区の家賃は通常の3倍かかる」

孫娘の進学のため、娘夫婦は引越しを機に彼を老人ホームに入れる気だ。

「お義父さん僕たちも辛いんです」身勝手な家族たち。

散歩に出た先で、ジンの愛犬が他の犬に噛まれてしまう。

<リン>

リン(ワン・ユーウェン)は暗く閉め切った部屋で身支度を整えている。

空き缶が床に散乱し、洗濯物は干したまま。トイレはまた水漏れを起こしている。

リンに水をかけられ起きた母親。

「ケーキがある、あんたに買ったのよ」

机には箱が潰れたバースデーケーキ。

溜息を吐きながら向かった学校で、関係を持つ副主任の元を訪れる。

<ブー>

ブー(ポン・ユーチャン)の友達・カイが携帯を盗んだ嫌疑で、不良のシュアイに絡まれている。

「彼は盗んでない」カイをかばうブー。

怒ったシュアイがブーの鞄を掴んで押さえつけた。振りほどこうとするブー。

その反動でシュアイが階段から転げ落ちる。辺りに響く鈍い音。

ブーは駆け足でその場から逃げ出した――――。

逃げるブーとそれを追うシュアイの兄・チェン。バスの中で拾った大サーカスのチラシを見たブーは、一日中ただ座り続けているという奇妙な象の存在に興味を持ち、ジンやリンを誘い遠く2300km先の果て・満州里に向かうために画策する――――。



Index


中国・新鋭監督の初長編にして遺作



 ハンガリーの鬼才タル・ベーラ監督から教えを受けたという、中国の新鋭監督フー・ボーが、自身の著書の短編を映画化した『象は静かに座っている』は、彼の初長編作品であり、同時に遺作となった。まだ29歳だった彼は、本作の完成後に、自ら命を絶ってしまったのだ。


 自殺の理由は、一説では、234分(ほぼ4時間)に及ぶ本作を短く編集し、120分以内にするよう要求したプロデューサーとの軋轢にあったと噂されるものの、それが真実なのかどうか、彼や周辺事情を知らない私たちには判断しようがない。確実なのは、この事件によって、結果的に短く編集されるという処置を受けなかった本作が、否が応でも、そのセンセーショナルな事柄を背負う映画になったということだ。


『象は静かに座っている』予告


 物語は、廃れた炭鉱のある中国の地方都市で、耐え難い現実と直面する4人の主要登場人物の1日を追っていくというもの。親友の妻と不倫をしたことで、目の前で親友に飛び降り自殺されてしまう青年。孫娘の進学を理由に、家族から老人ホームに入るように説得され続けている老人。母親との衝突が絶えず、学校の男性教師と密かに関係を結んでいる少女。そして、ある事件を起こしてしまったことで、粗暴な父のいる家に帰れずにあちこちを彷徨する少年。


 やがて彼らは、街から2,300キロメートルも離れている、ロシアとの国境にある“満州里”の動物園に、1日中ただ座っているという奇妙な象がいるらしい……という話に惹きつけられていく。



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