2019.11.05
※2019年11月記事掲載時の情報です。
※本記事は物語の核心に触れているため、映画をご覧になってから読むことをお勧めします。
『象は静かに座っている』あらすじ
朝。
<チェン>
親友の妻の部屋で目覚めたチェン(チャン・ユー)。
一服していると、不意に親友が扉を叩いた。
「誰かいるのか」
隅に隠れやり過ごそうとするが、扉を開けて親友が入って来る。
「お前だったのか」
チェンを一瞥し、親友は目の前で窓から飛び降りた。
<ジン>
窓際の狭い一畳の空間で寝起きする老人ジン(リー・ツォンシー)。
「文教地区の家賃は通常の3倍かかる」
孫娘の進学のため、娘夫婦は引越しを機に彼を老人ホームに入れる気だ。
「お義父さん僕たちも辛いんです」身勝手な家族たち。
散歩に出た先で、ジンの愛犬が他の犬に噛まれてしまう。
<リン>
リン(ワン・ユーウェン)は暗く閉め切った部屋で身支度を整えている。
空き缶が床に散乱し、洗濯物は干したまま。トイレはまた水漏れを起こしている。
リンに水をかけられ起きた母親。
「ケーキがある、あんたに買ったのよ」
机には箱が潰れたバースデーケーキ。
溜息を吐きながら向かった学校で、関係を持つ副主任の元を訪れる。
<ブー>
ブー(ポン・ユーチャン)の友達・カイが携帯を盗んだ嫌疑で、不良のシュアイに絡まれている。
「彼は盗んでない」カイをかばうブー。
怒ったシュアイがブーの鞄を掴んで押さえつけた。振りほどこうとするブー。
その反動でシュアイが階段から転げ落ちる。辺りに響く鈍い音。
ブーは駆け足でその場から逃げ出した――――。
逃げるブーとそれを追うシュアイの兄・チェン。バスの中で拾った大サーカスのチラシを見たブーは、一日中ただ座り続けているという奇妙な象の存在に興味を持ち、ジンやリンを誘い遠く2300km先の果て・満州里に向かうために画策する――――。
Index
中国・新鋭監督の初長編にして遺作
ハンガリーの鬼才タル・ベーラ監督から教えを受けたという、中国の新鋭監督フー・ボーが、自身の著書の短編を映画化した『象は静かに座っている』は、彼の初長編作品であり、同時に遺作となった。まだ29歳だった彼は、本作の完成後に、自ら命を絶ってしまったのだ。
自殺の理由は、一説では、234分(ほぼ4時間)に及ぶ本作を短く編集し、120分以内にするよう要求したプロデューサーとの軋轢にあったと噂されるものの、それが真実なのかどうか、彼や周辺事情を知らない私たちには判断しようがない。確実なのは、この事件によって、結果的に短く編集されるという処置を受けなかった本作が、否が応でも、そのセンセーショナルな事柄を背負う映画になったということだ。
『象は静かに座っている』予告
物語は、廃れた炭鉱のある中国の地方都市で、耐え難い現実と直面する4人の主要登場人物の1日を追っていくというもの。親友の妻と不倫をしたことで、目の前で親友に飛び降り自殺されてしまう青年。孫娘の進学を理由に、家族から老人ホームに入るように説得され続けている老人。母親との衝突が絶えず、学校の男性教師と密かに関係を結んでいる少女。そして、ある事件を起こしてしまったことで、粗暴な父のいる家に帰れずにあちこちを彷徨する少年。
やがて彼らは、街から2,300キロメートルも離れている、ロシアとの国境にある“満州里”の動物園に、1日中ただ座っているという奇妙な象がいるらしい……という話に惹きつけられていく。