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『フェアウェル』愛情に嘘はつけない ――“違い”を認める優しき家族劇

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『フェアウェル』愛情に嘘はつけない ――“違い”を認める優しき家族劇

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『フェアウェル』あらすじ

NYに暮らすビリーと家族は、ガンで余命3ヶ月と宣告された祖母ナイナイに最後に会うために中国へ帰郷する。家族は、病のことを本人に悟られないように、集まる口実として、いとこの結婚式をでっちあげる。ちゃんと真実を伝えるべきだと訴えるビリーと、悲しませたくないと反対する家族。葛藤の中で過ごす数日間、うまくいかない人生に悩んでいたビリーは、逆にナイナイから生きる力を受け取っていく。思いつめたビリーは、母に中国に残ってナイナイの世話をしたいと相談するが、「誰も喜ばないわ」と止められる。様々な感情が爆発したビリーは、幼い頃、ナイナイと離れて知らない土地へ渡り、いかに寂しく不安だったかを涙ながらに母に訴えるのだった。家族でぶつかったり、慰め合ったりしながら、とうとう結婚式の日を迎える。果たして、一世一代の嘘がばれることなく、無事に式を終えることはできるのか?だが、いくつものハプニングがまだ、彼らを待ち受けていた──。帰国の朝、彼女たちが選んだ答えとは?


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全米の上映館が4館から約900館にまで拡大



 大好きだから、噓をついた。でも、本当は素直でいたかった。

 これは、東洋や西洋の枠を超えた、とびきりの愛の物語。


 ようやく観られる、という安堵感が大きいのではないか。日本ではもともと4月に公開予定だった『フェアウェル』(19)が、新型コロナウイルスの影響による公開延期を乗り越え、ついに国内のスクリーンに映し出される。


 第77回ゴールデングローブ賞において、オークワフィナが主演女優賞を受賞(ミュージカル・コメディ部門)。その他も、ゴッサム・インディペンデント映画賞の主演女優賞や、2019年のナショナル・ボード・オブ・レビュー賞では、インディペンデント映画トップ10にランクインした。


 ちなみに、ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞でランクインした他の作品は『名もなき生涯』『ジュディ 虹の彼方に』『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』『ミッドサマー』『ナイチンゲール』『ザ・ピーナッツバター・ファルコン』『ワイルド・ローズ』など。興行面でも、全米4館のスタートながら最終的には900館近くまで拡大。世界興行収入は2,200万ドル超で、日本でも高評価を得た『ブックスマート』(19)とほぼ同格だ。


『フェアウェル』予告


 もうひとつ、『フェアウェル』が話題を集めた要素。それは、A24の配給作品であることだろう。『ムーンライト』(16)『レディ・バード』(17)『ミッドサマー』(19)……もはや説明不要の映画スタジオで、どの配給作品もセンスの塊という彼らが配給したとなれば、期待も高まるというもの。


 さらに本作は、「アジア人による映画が米国で評価された」という文脈でも意義深いものでもあるのだが、『クレイジー・リッチ!』(18)や『パラサイト 半地下の家族』(19)等々の躍進、さらにNetflix等の配信作品も入れれば、ここ数年で大きく流れが変わっていることもあり、本稿ではその部分については省かせていただきたい。


 というのも、あくまで私見ではあるのだが、これまでA24が手掛けてきた作品のラインナップから見ていくと、そもそも彼らは人種や国という“枠”にとらわれず、「良い映画」を届けているように感じられるから。『フェアウェル』もその一環で、ルル・ワン監督が語っているように、なかなか手を挙げてくれるプロデューサーに出会えなかったという背景や、A24サイドでもマーケティング的に試行錯誤があったかとは思うのだが、これまでの自社配給作品通り、クオリティの高さ、オリジナリティの高さが先に立っている。


 余談だが、先日予告編が発表されたA24の新作『Minari』(20)も、アメリカンドリームを目指して渡米してきた韓国人家族の物語だ。『First Cow』(20)も移民の交流を描いた作品であり、アジア系のキャラクターが登場する。


『Minari』予告



『First Cow』予告


 『フェアウェル』はそういった特徴を抜きにして、まず抜群に面白い。だからA24が配給し、ヒットして賞レースにも絡んだ。結局、そこに尽きるのではないか。実際、A24以外にもNetflix、Amazon、サーチライト・ピクチャーズが獲得に動いていたという。本作は映画として、どうしようもないほどに魅力的なのだ。


 今回はそんな、『フェアウェル』の面白さに注視して、ご紹介していきたい。



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