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『フェアウェル』愛情に嘘はつけない ――“違い”を認める優しき家族劇

『フェアウェル』愛情に嘘はつけない ――“違い”を認める優しき家族劇

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「バレたら終わり」が生み出す“笑い”



 『フェアウェル』の面白さは、どんな部分にあるのか? 個人的に感じたポイントは、大きく分けて4つ。「死と噓をテーマにしつつ、ハートフルなコメディであること」「登場人物が“愛で動く”こと」「“個人”の物語であること」「東洋と西洋の“狭間”を描いていること」だ。ここからはこのポイントに沿って、考察していこう。


 まず、「死と噓をテーマにしつつ、ハートフルなコメディであること」。これはまず、あらすじを見ていただきたい。


 6歳の時に、中国からアメリカに移住したビリー(オークワフィナ)。大人になった彼女は学芸員を目指すも、なかなか採用されない日々を送っていた。そんな折、両親から「祖母ナイナイ(チャオ・シュウチェン)がガンで余命3ヶ月と宣告された」と聞かされる。


 「最期の日々を楽しく過ごしてほしいから、本人には伝えない」と主張する両親や親戚たち、祖母にウソをつきたくないビリーは異を唱えつつも、しぶしぶ従うことに。祖母と過ごす時間を作るために、彼らは一計を案じ、いとこの結婚式をでっちあげる。ここに、ビリーたちの「絶対にバレてはいけない」帰省が始まった――。




 『フェアウェル』は「祖母の死」という心痛な未来を描きつつも、暗いトーンになることがない。むしろオープニングからエンディングまで一貫して、優しい雰囲気に満ちている。冒頭、画面に映し出されるのは「実際にあった噓に基づく」という、なんともウィットに富んでいて微笑ましいテロップ。そこで観客をクスリとさせ、肩の力を抜かせる“目くばせ”が、秀逸だ。


 この作品の設定自体が、「バレたら終わり」という観客にもわかりやすい“縛り”を施しており、ある種のゲーム的な娯楽として見ていける作りにもなっている。バレるのか、バレないのか、無事に祖母を葬(おく)ることができるのか――とハラハラしながら見守るタイプの「ミッションもの」でもあるのだ。そのため本作にも、いくつかドタバタコメディ的な要素が仕込まれており、観る者を飽きさせない。


 そして『フェアウェル』は、「とっつきやすさ」が絶妙だ。「祖母に病気のことがバレたらダメ」という“一言で伝えられるわかりやすさ”(監督本人の実体験に基づいているため、観る者の生活と結びつけられる「共感性」も高い)がまずあって、そこにハートフルなコメディ要素が加わることで、観客をまずリラックスさせる。さらにその先に、沁みるドラマや社会性が待ち受けているのだ。


 これが最初から「米国で暮らすアジア系移民の女性が、故郷で自己のアイデンティティを考え直す」というテーマ性が最前面に出ていたら、結果はまた違っただろう。間口が広く、入ってしまえば味わい深い。多くの人々に愛される名作映画の条件を、『フェアウェル』はきっちりと満たしている。



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