©2022 Qizi Films Limited, Beijing J.Q. Spring Pictures Company Limited. All Rights Reserved.
『小さき麦の花』麦穂色の絵巻物、名もなきロバと歩む歌
名もなきロバ
リー・ルイジュンの過去作『僕たちの家に帰ろう』(14)における二人の少年が乗るラクダがそうだったように、彼は『小さき麦の花』における名もなきロバにもキャストと同様の価値を与えていく。ロバは二人にとって家族であり、財産であり、移動手段でもある。そしてリー・ルイジュンが広げる映画のキャンバスには、どこか西部劇の原風景、故郷を捉えるような雰囲気がある。観客はヨウティエ、クイイン、そしてロバと共にスクリーンの旅に出る。本作の美しい撮影には、ロバの歩みと共に絵巻物を広げていくような緩やかなリズムがある。麦穂色の絵巻物。ロバが歩む度に小さく鳴る鈴の音が、いつまでも耳に残り続ける。ロバに名前はないが、ヨウティエやクイインの生活と同じように、名もなき者の詩がロバの歩みによって生まれている。
『小さき麦の花』©2022 Qizi Films Limited, Beijing J.Q. Spring Pictures Company Limited. All Rights Reserved.
再びこの地域に厳しい冬がやってこようとしている。急速な開発計画により、二人とロバが歩んだこの風景はやがて消えていくだろう。泣きながら笑い合うような二人の声、そのイメージは風に飛ばされ、どこかの土地の塵になっていく。リー・ルイジュンは、この塵の中に歌を見出す。人生、そして時間は消滅していくものではなく、塵の中に漂い続けるのだと。
放牧された魂。誰かを敗者にするようなシステムから外れた楽園。誰かを傷つけたり脅威を与えたりしない楽園。やがて消えていくスクリーンの幻影。それは天国に違いなかった。二人が歩んだ旅路の跡に、いつまでもロバの鈴の音が歌い続けている。
*『小さき麦の花』プレス資料
映画批評。「レオス・カラックス 映画を彷徨うひと」、ユリイカ「ウェス・アンダーソン特集」、リアルサウンド、装苑、otocoto、松本俊夫特集パンフレット等に論評を寄稿。
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