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リブート版『新幹線大爆破』は、『シン・ゴジラ』の流れを組む『シン・幹線大爆破』である ※注!ネタバレ含みます

Netflix映画『新幹線大爆破』

リブート版『新幹線大爆破』は、『シン・ゴジラ』の流れを組む『シン・幹線大爆破』である ※注!ネタバレ含みます

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オリジナル版から消えた、2つのサスペンス要素



 オリジナル版は、東京から博多に向かって一直線に進むひかり109号のように、余計な説明はいっさい削ぎ落として、ストーリーが最短距離で前進する映画だった。身代金の受け渡し場所にたまたま大学柔道部が通りかかるとか、喫茶店の火事で爆弾解除の方法を記した設計図が焼失してしまうとか、多少のご都合主義はご愛嬌。佐藤純弥監督の腕力で、グイグイと映画の世界に引き摺り込んでいく。


 しかもこの映画は、二重・三重にサスペンスが張り巡らされている。①博多に到着する前に、ひかり109号は爆弾を解除できるか(=タイムリミット・サスペンス)。②犯人グループの沖田(高倉健)たちは、500万ドルを手に入れられるのか(=身代金受け渡しのサスペンス)。③沖田は警察の警戒網をかいくぐって国外に脱出できるか(=逃走劇のサスペンス)。国鉄側と犯人側のドラマをカットバックさせながら、手に汗握る攻防がスリリングに展開する。


 一方今回のリブート版は、基本的に「東京に到着する前に、はやぶさ60号は爆弾を解除できるか」という「①タイムリミット・サスペンス」一本勝負。70年代であれば身代金受け渡し自体がドラマに成り得たが、2025年現在は暗号資産を指定した口座に振り込むだけで完結してしまう。「②身代金受け渡しサスペンス」を物語に組み込むことは、どう考えても至難の業。その要素を外したのは、極めて合理的な判断に思える。



Netflix映画『新幹線大爆破』


 事件の真犯人を女子高生の柚月(豊嶋花)にすることで、「③逃走劇のサスペンス」も割愛したのは大きな決断だったといえるだろう。彼女の目的は身代金ではなく、自分を肉体的・精神的に虐待した父親への復讐であり、この世界が欺瞞に満ちていることの告発。樋口監督は、NHKで放送されていたドラマ『17才の帝国』(22)を観たことをきっかけに、大人vs.子供の対立軸を映画に持ち込んだ。


 オリジナル版の犯人は、高度経済成長の波に弾き飛ばされてしまった“時代の犠牲者”であり、反体制的なアウトロー。そう考えると今回、旧世代のツケを払わされている若い世代を、“時代の犠牲者”として設定した発想自体は面白い(いささか彼女の心情が視聴者に分かりにくいにせよ)。


 だが個人的にちょっと気になるのは、目的が身代金ではなかったことで、起業系YouTuberの等々力(要潤)が即席で立ち上げたクラウドファンディングが、サスペンスに寄与していないこと。本来ならば、「東京に到着する前に1,000億円カンパされるか」というタイムリミット・サスペンスが起動するはずなのに、なんだか途中で梯子が外されてしまったような感覚なのだ。


 この「梯子が外されてしまう感覚」が、実はもう一つある。はやぶさ60号を東海道新幹線に直通させるため、急ピッチで線路を繋ぐ作業を実施。だが上層部の命令によって、計画は中止に追いやられてしまう。会議室と現場の意見の相違という、『踊る大捜査線』的シチュエーションを描いているのだろうが、これもタイムリミット・サスペンスが途中で消え失せてしまったような気持ちになってしまう。


 この「梯子が外されてしまう感覚」を、予想をあえてはぐらかすという意味で肯定的に捉えるか、否定的に捉えるかで、本作の評価が分かれるかもしれない。





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