2025.05.01
対立のドラマから、連帯のドラマへ
今回のリブート版でサプライズだったのは、ピエール瀧の役どころだろう。『全裸監督』(19、21)、『サンクチュアリ -聖域-』(23)、『忍びの家 House of Ninjas』(24)、『地面師たち』(24)など、最近はすっかりNetflixオリジナル作品の常連俳優という立ち位置だが、今回は犯人・柚月の協力者として登場。しかも、オリジナル版で犯人グループのひとりだった古賀(山本圭)の息子という設定。実は本作はリブート版ではなく、正統な続編だったのである。
そして、その古賀を射殺したのは自分だと周りに吹聴していた元警察官で、柚月の父親を演じているのが、森達也。『A』(98)、『FAKE』(16)、『i-新聞記者ドキュメント-』(19)、『 福田村事件』(23)などで知られる映画監督だ。『シン・ゴジラ』(16)では有識者の学者役で犬童一心、緒方明、原一男、『シン・ウルトラマン』(22)では居酒屋の店長役で白石和彌が出演していたことでも明らかなように、現役のフィルムメーカーが出演するのは樋口映画のお約束である。
そして筆者は、今回の『新幹線大爆破』は『シン・ゴジラ』、『シン・ウルトラマン』の流れを汲む、『シン・幹線大爆破』だと考えている。思えばオリジナル版は、対立のドラマだった。運転士の青木(千葉真一)は、次から次へと指示を出す運転指令長の倉持(宇津井健)に苛立ちを隠さない。
倉持は倉持で、人命救助ではなく犯人逮捕を優先する捜査第一課長の花村(鈴木瑞穂)と衝突。彼は、乗客が救出された情報を隠匿し続ける公安本部長の宮下(渡辺文雄)、ゼロ地点での強制停車を主張する新幹線総局長(永井智雄)とも対立する。お互いの信ずる倫理と倫理のぶつかり合いが、物語をドラマティックに高揚させていた。
Netflix映画『新幹線大爆破』
一方のリブート版は、連帯のドラマ。物語の中盤までは、総括指令長の笠置(斎藤工)と総理補佐官の佐々木(田村健太郎)、起業家YouTuberの等々力(要潤)と衆議院議員の加賀美(尾野真千子)の対立が描かれ、人命救助に尽力するJRと最悪のケースを防ぎたい政府とのあいだでも、方針をめぐって敵対する。だが、時間が経過していくにつれて彼らは連帯感を深め、同じ目的のために一致団結していく。「これは政府の決定事項だ」と分かりやすく陰険キャラだった佐々木に至っては、「私は彼らと約束したんです!」と熱い一面を見せるようになる。
音声のみのコミュニケーションがメインだったオリジナル版は、お互いの“顔”が見えないことで、最後までワンチーム感が希薄だった。一方のリブート版は、政府、JR、そして新幹線に取り残された人々が、鷲宮保守基地で実施される作戦内容をビデオ通話で共有する。彼らはお互いの顔を見て、お互いの目を見て、信頼を築き、ファイナル・ミッションに挑んでいくのだ。
ニッポンの底力。ニッポンの団結力。このテーマは、巨大不明生物が現れ、政府首脳が全滅してしまっても、新しい日本政府が事態を収拾する『シン・ゴジラ』や、日本政府が外交力の弱さを露呈してしまっても、最終的にはゼットンから人類が生き延びる方法を導き出す『シン・ウルトラマン』でも描かれてきた(『 日本沈没』も同様)。そう考えると、本作もその系譜に連なる作品と考えていいのではないか。
庵野秀明が『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』(25)に脚本で参加し、彼が率いる映像制作会社カラーが『宇宙戦艦ヤマト』の新作を発表しているように、樋口真嗣もまた、偉大なる過去の遺産を自らの手でリメイクし続けている。おそらくこれからも、その流れは続いていくことだろう。そして描かれるのは、キャラクターの連帯であり、ニッポンの底力なのである。
文:竹島ルイ
映画・音楽・TVを主戦場とする、ポップカルチャー系ライター。WEBマガジン「POP MASTER」(http://popmaster.jp/)主宰。
Netflix映画『新幹線大爆破』
Netflixにて独占配信中