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『殺しの分け前/ポイント・ブランク』死と時間と色彩が混濁する前衛ノワール

©2025 WBEI

『殺しの分け前/ポイント・ブランク』死と時間と色彩が混濁する前衛ノワール

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ウォーカー=リー・マーヴィン自身のメタファー



 この映画の原作は、ドナルド・エドウィン・ウェストレイク(名義はリチャード・スターク)の犯罪小説「悪党パーカー・人狩り」。ジョン・ブアマンは渡された脚本は好きになれなかったが、パーカーという主人公像にはすっかり魅了された。彼にとって幸運だったのは、主演を務めるリー・マーヴィンもまた、脚本に不満を持っていたことだ。ミーティングで初めて顔を合わせた二人は、たちまち意気投合する。


 リー・マーヴィンの働きかけによって、スタジオ側はシナリオから主要人物のキャスティングに至るまで、ジョン・ブアマンの決定に従うことを承認。イギリス生まれの若きフィルムメーカーは、初めてのハリウッド映画でいきなりファイナルカット権を手に入れた。そうでなければ、こんなにヘンテコなフィルム・ノワールは産み落とされなかっただろう。さっそくジョン・ブアマンはその権利を行使して、大きな変更を加える。主人公の名前を、パーカーからウォーカーに変えてしまったのだ。男がロサンゼルスの街を歩くショットが、この映画にとって最も重要であると信じていたからだ。


 ジョン・ブアマンはリー・マーヴィンと何度も打ち合わせを重ね、イメージを膨らませていく。やがて彼は、映画の主人公がリー・マーヴィンの境遇とよく似ていることに気づく。



『殺しの分け前/ポイント・ブランク』©2025 WBEI


 「彼は18歳で軍隊に入隊し、スナイパーとして多くの日本兵を射殺した。彼にとって演技をすることは、ある意味で人間性を取り戻そうとする試みだったんだ。私がこの物語を作り上げたとき、彼はとても共感してくれたよ。なぜなら、この物語は彼自身の人生のメタファーでもあったからね」(*4)


 ウォーカーは自分のファースト・ネームを名乗らない。映画に映し出されるのは、人間的感情を失った素性も知れない男だ。妻から懺悔の言葉を聞かされても、彼は表情をピクリとも変えることなく、いっさい言葉も発しない。“正体不明の死者”を主人公に据えることで、ジョン・ブアマンは人間性を失っていた時代のリー・マーヴィンをスクリーンに蘇らせた。フランス・ヌーヴェルヴァーグのような、アヴァンギャルドな手法で。きっとジョン・ブアマンにとって映画とは、バラバラに散らばった夢の欠片を拾い集めるような作業なのだろう。『殺しの分け前/ポイント・ブランク』が抗しがたい魅力を放っている理由は、そこにある。ジョン・ブアマンもこう語っている。


 「映画を書くことは、小説を書くことよりも詩を書くことに似ている。(中略)映画をリアルにしようとすればするほど、リアルではなくなる。パラレルワールドであり、メタファーであり、それが最高の見方なんだ」(*5)


(*1)https://www.theguardian.com/film/2020/feb/13/john-boorman-you-think-the-holy-grail-is-lost-no-i-have-it-on-my-piano

(*2)https://www.youtube.com/watch?v=JtEy9a2A8Ts

(*3)https://cinephiliabeyond.org/point-blank/

(*4)(*5)https://www.theskinny.co.uk/film/interviews/john-boorman-queen-country-interview



文:竹島ルイ

映画・音楽・TVを主戦場とする、ポップカルチャー系ライター。WEBマガジン「POP MASTER」(http://popmaster.jp/)主宰。



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作品情報を見る



『殺しの分け前/ポイント・ブランク』

シネマート新宿ほか全国順次ロードショー中

提供:キングレコード 配給:コピアポア・フィルム

©2025 WBEI

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