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『悪魔のシスター』観客をピーピングトムへと引き摺り込む、とびっきりの悪夢

©1973 American International Pictures, Inc.

『悪魔のシスター』観客をピーピングトムへと引き摺り込む、とびっきりの悪夢

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『悪魔のシスター』あらすじ

モデルのダニエルは、テレビ番組のエキストラ役をきっかけに知り合った青年と一夜を過ごす。翌日、向かいのアパートに住む女性記者グレースは、青年がダニエルの部屋で惨殺されるのを目撃。独自に調査を開始 したグレースは、ダニエルには実は妹がいて、結合双生児として生まれていたことを知るのだったが、それは本当の恐怖に飲み込まれる一歩だった…。


Index


見る(覗く)/見られる(覗かれる)



 道徳観や倫理観を思考停止に陥らせ、他人の生活を強制的に覗き見させること。ブライアン・デ・パルマは我々観客を共犯者に仕立てて、ピーピングトム(覗き魔)へと引き摺り込む。


 『ファントム・オブ・パラダイス』(74)では、愛する女性が別の男性に抱かれる姿を主人公が天窓から覗いて、むせび泣く。『ミッドナイトクロス』(81)では、冒頭からカメラが大学の女子寮に忍び込む。『ボディ・ダブル』(84)では、隣家でセクシーに踊る女性の姿を、主人公が夜な夜な望遠鏡で覗き見る。かつてアルフレッド・ヒッチコックが実践してみせた「見る(覗く)/見られる(覗かれる)」という本質的な映画構造を、デ・パルマはより下劣に、より猥雑に、より露悪的に描き出す。


『悪魔のシスター』予告


 彼の原点ともいえる初期作『悪魔のシスター』(73)でも、覗き見スピリットはスパークしている。何せ冒頭から流れるのは、「覗き屋トム(PEEPING TOMS)」という謎のTV番組。男性が近くにいるにも関わらず、美女がどんどん脱いでいくというドッキリが仕掛けられる。果たして青年は彼女に、「1:存在を知らせるのか」、「2:黙っているのか」、「3:出ていくのか」。世にもサイテーな3択クイズが出題される。


 しかもこの番組、その後のストーリー展開には何ら寄与しない。仕掛け人モデルのダニエル(マーゴット・キダー)が、ドッキリにかけられた青年フィリップ(ライスル・ウィルソン)と知り合うキッカケとして登場するだけ。デ・パルマは覗き見番組をフックとして使うことで、「見る(覗く)/見られる(覗かれる)」をド直球で表現する。


 さらにデ・パルマはもうひとつ仕掛けを施して、その構造を強固に明示する。「フィリップが窓際で息絶える瞬間を、向かいのマンションから女性記者グレース(ジェニファー・ソルト)が目撃する」という、あからさますぎるプロットを導入しているのだ。設定はもうほとんど、ヒッチコックの『裏窓』(54)ーー。そう、『悪魔のシスター』には、デ・パルマが心酔してやまない“サスペンスの神様”へのオマージュが、ふんだんに織り込まれている。




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