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『悪魔のシスター』観客をピーピングトムへと引き摺り込む、とびっきりの悪夢

©1973 American International Pictures, Inc.

『悪魔のシスター』観客をピーピングトムへと引き摺り込む、とびっきりの悪夢

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デ・パルマ作品の“顔”、ウィリアム・フィンレイ



 さほど知名度はないものの、有名映画監督の作品の“顔”として、ファンに認識されている俳優たちがいる。例えば、デイヴィッド・リンチの長編デビュー作『イレイザーヘッド』(77)で主演を務めた、ジャック・ナンス。その後も『デューン/砂の惑星』(84)、『ブルーベルベット』(86)、TVドラマ『ツイン・ピークス』(90〜91)など、コンスタントにリンチ映画に出演し続けてきた常連だ。もしくは、学生時代からサム・ライミの親友だったブルース・キャンベル。『死霊のはらわた』シリーズ(83、87、93)で主演を務めた後は、『ダークマン』(90)や『スパイダーマン』シリーズ(02、04、07)などの端役で登場。一瞬でも彼らの顔が映った瞬間、ファンは感激にむせぶのである(筆者含む)。


 そしてデ・パルマ作品の“顔”というべき俳優は、やはりウィリアム・フィンレイだろう。大学在学中にブライアン・デ・パルマと出会い、殺人ミステリー『Murder à la Mod』(68)で映画デビュー。『ファントム・オブ・パラダイス』(74)の哀しき怪人ファントム役をはじめ、『フューリー』(78)、『殺しのドレス』、『ブラック・ダリア』(06)と、断続的にデ・パルマ映画に登場してきた。ギョロギョロしたあの目つきは、一度見たら忘れようがない。



『悪魔のシスター』©1973 American International Pictures, Inc.


 『悪魔のシスター』で彼が演じているのは、ダニエルに執着する夫エミール。そしてデ・パルマは確実に、自分自身をエミールに投影している。一途すぎる想いを注ぎ込むものの、決して報われない愛(その設定は、怪人ファントムにも酷似している)。その狂気にも似た倒錯性に、強烈なシンパシーを感じているのではないか。だからこそ『悪魔のシスター』には…というよりもデ・パルマ映画には…えも言われぬ哀しみが張り付いているのだ。


 異常なスリラーでありながらメロドラマでもあるという構造は、それ自体がヒッチコック的ともいえる。邪悪なユーモアと、「見る(覗く)/見られる(覗かれる)」という図式をメタ的に重ね合わせることで、ブライアン・デ・パルマは真に映画的な映画を創り上げた。観客をピーピングトムへと引き摺り込む、とびっきりの悪夢。それは、<甘美なフィルム>という言葉と同義である。


(*1)(*2)Brian De Palma : interviews(University Press of Mississippi)

(*3)https://www.youtube.com/watch?v=rqD2W2Z3BSE



文:竹島ルイ

映画・音楽・TVを主戦場とする、ポップカルチャー系ライター。WEBマガジン「POP MASTER」(http://popmaster.jp/)主宰。




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作品情報を見る



『悪魔のシスター デジタルリマスター版』

2024年1月19日(金)よりシネマート新宿ほか全国順次ロードショー

配給:マーメイドフィルム、コピアポア・フィルム

©1973 American International Pictures, Inc.

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