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『殺しの分け前/ポイント・ブランク』死と時間と色彩が混濁する前衛ノワール

©2025 WBEI

『殺しの分け前/ポイント・ブランク』死と時間と色彩が混濁する前衛ノワール

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『殺しの分け前/ポイント・ブランク』あらすじ

ウォーカーは、親友リースとともにアルカトラズ島刑務所の廃墟で行われる組織の取引を急襲、大金の強奪に成功する。だが、リースはウォーカーを裏切って銃弾を浴びせ、金を持って逃げ去った。「夢だ、これは夢だ…」。薄れゆく意識の中、ウォーカーの脳裏でさまざまな記憶と幻想が交錯する―。


Index


幽霊と化した復讐者が、ロサンゼルスに舞い戻る物語



 「映画を撮っているときは、“死は存在しない”と自分に言い聞かせることができるんだ」(*1)。


 『脱出』(72)、『未来惑星ザルドス』(74)、『エクソシスト2』(77)などで知られる異能の映画作家ジョン・ブアマンは、死から逃れるように作品を撮り続けてきた。虚構の世界に身を浸すことで、世の理(ことわり)から目を背けてきた。その精神性は、アウトプットされた映画にもしっかりと染み込んでいる。特に、彼の劇場映画2作目に当たる『殺しの分け前/ポイント・ブランク』(67)は、まるで呪われた夢のなかを死者が彷徨っているかのような、前衛フィルム・ノワールだ。


 突如銃声が鳴り響き、男が倒れるファースト・カット。その男ウォーカー(リー・マーヴィン)は、親友のリース(ジョン・ヴァーノン)にそそのかされ、犯罪組織の取引を襲撃して大金を強奪。だが突然の裏切りにあい、銃弾を浴びせられてしまう。こう書くと何の変哲もない描写のようだが、①アルカトラズ刑務所跡で犯罪組織を襲撃するシーン、②謎のパーティのさなか「助けてくれ!」とウォーカーを押し倒してリースが懇願するシーンが高速カットバックされるという、時系列がとっ散らかった編集のため、観ている我々は状況をうまく脳内処理できない。冒頭からクエスチョン・マークが点灯しまくりである。



『殺しの分け前/ポイント・ブランク』©2025 WBEI


 撃たれたウォーカーは、「これは夢だ」とつぶやく。そして、至近距離で撃たれたにも関わらずフラフラと立ち上がり(ちなみにポイント・ブランクとは至近距離という意味)、重傷とは思えない足取りでアルカトラズ島を脱出する。クリント・イーストウッドが主演した『アルカトラズからの脱出』(79)でも描かれていたとおり、アルカトラズ刑務所は脱獄不可能の監獄島。土手っ腹に銃弾を食らったウォーカーがアルカトラズの独房で横たわるのは、逃避不可能な状態=死を示している。


 もはや、ウォーカーはこの世に存在していない。我々が最初に目撃するのは、主人公であるはずの人物の死だ。漆黒に包まれた彼が、天井をつたって脱出する様子を真下から捉えたショットは、ほとんど幽体離脱のよう。『殺しの分け前/ポイント・ブランク』は、幽霊と化した復讐者がロサンゼルスに舞い戻る物語なのである。


 そう考えるとウォーカーというキャラクターは、ロバート・アルトマンが監督した『ロング・グッドバイ』(73)のフィリップ・マーロウ(エリオット・グールド)とよく似ている。50年代ロサンゼルスを舞台にした原作小説を、映画では大胆にもドラッグカルチャー華やかりし70年代に移し替えた。マーロウはリップ・ヴァン・ウィンクルのように20年眠り続け、半覚半睡の状態で帰還する。二人とも、この世界から切り離された異者なのだ。





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