
© 1971 Columbia Pictures Industries, Inc. All Rights Reserved.
『10番街の殺人』国家が奪った命の重みを問う、実録犯罪映画
冷酷な怪物を演じ切った名優リチャード・アッテンボロー
ジョン・クリスティを演じたのは、リチャード・アッテンボロー。『遠すぎた橋』(77)や『コーラスライン』(85)などを手がけ、『ガンジー』(82)ではアカデミー監督賞にも輝いたことから、映画監督としてのイメージが強いが、もともとは俳優出身。『砲艦サンパブロ』(66)と『ドリトル先生不思議な旅』(67)で、ゴールデングローブ賞助演男優賞を受賞した名優であり、『ジュラシック・パーク』(93)ではインジェン社CEOジョン・ハモンド役を茶目っ気たっぷりに演じていた。
華麗なるフィルモグラフィーのなかでも、この殺人鬼役はハイライトのひとつに挙げられるだろう。アッテンボローは、物腰の柔らかい態度、ささやくような話し方、凶悪な本性が突然浮かび上がる顔力を駆使して、冷酷な怪物を演じ切っている。『ミッドナイト・エクスプレス』(78)や『エレファント・マン』(80)で知られる、こちらも名優のジョン・ハートが、ティモシー・エヴァンスを短気かつ無教養キャラとして演じたのと、見事な対照を成している。
『10番街の殺人』© 1971 Columbia Pictures Industries, Inc. All Rights Reserved.
当初アッテンボローは、実在のシリアル・キラーを演じることに抵抗を感じていた(当然だ)。しかし、彼はこの映画への参加が、死刑制度への異議申し立てとなると確信し、最終的には強い信念を持って役を引き受ける決断を下す。
「この役を演じるのは好きではないが、台本を見ずにすぐに引き受けた。これほど役に入り込んだと感じたことはない。死刑に関する最も強力な声明だ」(*)
撮影中アッテンボローは誰とも会話せず、ランチタイムには自分の部屋に引きこもっていたという。自分のなかにモンスターを生み出し、育み、その狂気を全身にまとうことで、ジョン・クリスティというキャラクターをかたちづくっていく。この映画が彼の誇りであり、社会的記録としても娯楽作品としても重要であると述べているのは、偽らざる実感だったことだろう。
国家が奪った命の重みを問う実録犯罪映画、『10番街の殺人』。人類は間違いを起こすからこそ、負の歴史は記憶にとどめておく必要がある。リチャード・アッテンボローが語る通り、本作は「社会的記録としても娯楽作品としても重要」な一本だ。
(*)https://collider.com/10-rillington-place-true-story/
文:竹島ルイ
映画・音楽・TVを主戦場とする、ポップカルチャー系ライター。WEBマガジン「POP MASTER」(http://popmaster.jp/)主宰。
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