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『リトル・ミス・サンシャイン』まるで舞踏団のように息の合った家族は、いかに生み出されたか?

(C)2018 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

『リトル・ミス・サンシャイン』まるで舞踏団のように息の合った家族は、いかに生み出されたか?

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ささやかだけれど忘れがたいワンシーン



 こういった、いわゆる何をやるにしても神がかり的な“ゾーン”に突入すると、もはや作り手の予想を超えた名場面が次々と生まれていく。後半の小高い丘でのシーンなんてその好例と言っていい。


 ポール・ダノ演じるお兄ちゃんがミニバスから飛び出し、溜まりに溜まった感情を爆発させながら丘を駆け下りていくこの場面。見かねたオリーヴもすかさず勢いよく駆け下り、お兄ちゃんに寄り添って慰めようとする————という流れになるはずが、彼女はこの丘の段差が怖くて、いざ本番になると、転ばぬように用心しながらソロソロと下っていったのだとか。


 改めて本編を観てみると、この「いますぐ駆けつけたい想い」と「ソロソロとした足運び」のミスマッチが逆に面白く思えてならない。これぞ本作ならではのユニークな可愛らしさと可笑しさが同居する名シーンだ。



『リトル・ミス・サンシャイン』(C)2018 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.


 さらに、二人がミニバスの停まる丘の上まで戻っていく場面では、先ほどの段差のところでお兄ちゃんがオリーヴの体をヒョイと抱えてあげる。これはもともと脚本にない動きで、現場のやり取りの中で自ずと生まれたものなんだとか。このさりげなくほとばしる兄の優しさこそ、慰めてくれた妹への何よりの「ありがとう」。きっと長らく一緒に旅を続けてきた彼らだからこそ、こういった柔らかく素直な空気を生み出せたのだろう。その光景を丘の上から見守る家族の表情も、なんとも言えない温もりに満たされている。


家族のラスト・ダンスがもたらした最高の笑いと涙



 そんな彼らがついにたどり着く、ミス・コン会場のあまりの煌びやかさ。これはキャスト一人一人にとっても全く見たことのない別世界だった。すっかり気後れしてキョロキョロと辺りを見回す表情はもはや演技を超えた素のリアクションと言っていい。


 そしてほぼ一か月にわたって一緒に行動してきた“舞踏団”のような擬似家族にも、ついに運命の瞬間が訪れようとしていた。順撮りしてきた彼らを待ち受けるのは、今となってはすっかり伝説と化した、あのラストシーンだ。デイトン&ファレリー監督はキャストを集めて、「みなさんが家族を演じるのは今日がいよいよ最後。どうか悔いを残さぬよう、全てを出し切ってほしい」と伝えたという。


『リトル・ミス・サンシャイン』予告


 結果、誰もが心の底から思いを振り絞ってこのシーンに臨んだ。そうやって得られたのは、誰もが爆笑しながらも思わず涙してしまうラスト・ダンス。皆、お世辞にも上手とは言えないし、はっきり言ってダサいし、リズムだってバラバラだ。でもバラバラさの中にこそ、彼らの到達点ともいうべき絶妙なコンビネーションが見て取れる。


 この瞬間、彼らがどんなメダルやトロフィーよりも尊くて輝かしいものを手に入れたことは、誰の目にも明らかだ。彼らはもはや、低迷していたダメ家族などではない。今や同じ方向をしっかりと見つめ、心を一つに重ね合わせ、みんなと一緒にいることを精一杯に楽しんでいる、史上最高の家族だ。


 あれから12年。クライマックスの熱狂と余韻は未だに覚めることがない。思えば、孤独な時、寂しい時、落ち込んだ時、我々は『リトル・ミス・サンシャイン』にいったいどれほど励まされてきたことか。そしてこれからも、あの家族からは変わらず、とびきりの元気と笑顔をもらい続けるのだろう。この結晶のような作品を讃えつつ、その舞台裏に隠れた舞踏団のごときキャストと、それを束ねた夫婦監督の奮闘に、心からの賛辞を送りたいものだ。




文: 牛津厚信 USHIZU ATSUNOBU

1977年、長崎出身。3歳の頃、父親と『スーパーマンⅡ』を観たのをきっかけに映画の魅力に取り憑かれる。明治大学を卒業後、映画放送専門チャンネル勤務を経て、映画ライターへ転身。現在、映画.com、EYESCREAM、リアルサウンド映画部などで執筆する他、マスコミ用プレスや劇場用プログラムへの寄稿も行っている。



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『リトル・ミス・サンシャイン 』

ブルーレイ発売中 ¥1,905+税  

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