1. CINEMORE(シネモア)
  2. 映画
  3. ラスト・ブレス
  4. 『ラスト・ブレス』ファイト一発サバイバル映画の新たな快作 ※注!ネタバレ含みます
『ラスト・ブレス』ファイト一発サバイバル映画の新たな快作 ※注!ネタバレ含みます

© LB 2023 Limited

『ラスト・ブレス』ファイト一発サバイバル映画の新たな快作 ※注!ネタバレ含みます

PAGES


『ラスト・ブレス』のリアリティ



 同作は実話をベースにした映画です。なので観客は、主人公が助かると知った状態で映画に臨みます。これは実話をベースにした映画の構造上の強みであり、弱点です。安心して観ることができる反面、観客の中には「絶望的な状況ですね。でも、どうせ助かるんでしょう?」という冷静な視点があるわけで。しかし本作は、その視点を巧妙にズラします。「助かるか/助からないか」ではなく、「どうやって助かったか?」へ持っていく。この誘導で一役買っているのが、本作のリアリティ溢れる各種の描写です。


 たとえば海底での作業に備えるため、長期に渡って減圧生活を送る時間をしっかり描きます。大量の装備品を身に着け、ともすれば地味と思われそうなほど、映画っぽくない、飾り気のない潜水艇や船の中を舞台にする。手持ちカメラや、ドキュメンタリーのような質感の映像も効果的です。そして『シャン・チー/テン・リングスの伝説』(21)の主演を務めたシム・リウ!彼もダイバーを演じており、鍛え上げた肉体を披露しますが、この鍛え上げた肉体もリアリティの構築に一役買っています。「これだけ鍛えないとダイバーはやっていけない」そして「これだけ鍛えていても海底では思うように動けない」この2点を印象づけるために、シム・リウはイイ仕事をしていました。



『ラスト・ブレス』© LB 2023 Limited


 こうしてリアリティ(本物そのものではなく、観客に「本物もこうなっているんだろうな」と思わせること)を持って進めることで、これから主人公らが入る場所=91mの海底の過酷さ、そこで頑張る主人公たちのプロとしての力量が伝わってくるのです。ここが充分に伝われば、映画として大成功。観客の視点は「こんなヤバそうなところで、どうやって助かったんだ?」へ移り、画面に釘付けになるでしょう。


 ちなみに本作の監督を務めたアレックス・パーキンソンは、ドキュメンタリー映画の出身です。しかも、この映画の元となった現実の事故を題材にした作品も手掛けていて、当時の現場について非常に詳しい人物。本作の監督として、ベストな人選でしょう。前半のドキュメンタリータッチの部分はもちろん、後半に見せたサスペンスの手腕も只者ではありません。今後も活躍が期待できます。




PAGES

この記事をシェア

メールマガジン登録
  1. CINEMORE(シネモア)
  2. 映画
  3. ラスト・ブレス
  4. 『ラスト・ブレス』ファイト一発サバイバル映画の新たな快作 ※注!ネタバレ含みます