こっちもオススメ!ド根性映画の傑作たち
さて、最後になりましたが、ここでファイト一発映画全体の話と、その中でもオススメの作品をいくつか挙げたいと思います。
まずこのジャンルの古典として挙げたいのが、『127時間』(10)と『ゼロ・グラビティ』(13)。前者は崖から滑落して、岩に右腕を挟まれてしまい、身動きがとれなくなる話。岩はまったく動かず、誰にも助けは届かず、日に日に弱っていく中で、主人公は決断を迫られます。それは自分で……。後者は、このジャンルの決定版の一つでしょう。シチュエーションは「宇宙に放り出される!」。なんと力強く、シンプルで、絶望的なシチュエーションでしょうか。予告編のサンドラ・ブロックがクルクル回りながら宇宙の彼方へ吹っ飛んでいくシーンで、「どうすんのこれ?」と絶望感を味わった人も多いはず。もちろん、シャレにならない状況に取り残されるという意味では、もっと古い映画で、海に放置されてサメに囲まれる『オープンウォーター』(03)があります。ただ、こちらは物語の終わり方がファイト一発映画とはちょっと逸れます。同じ海に取り残されてサメに襲われる映画なら『ロスト・バケーション』(16)の方がファイト一発映画らしい魅力に溢れているので、今回の記事では『ロスト・バケーション』をオススメしたいです。
定番以外ですと、個人的に推したいのが『イントゥ・ザ・スカイ 気球で未来を変えたふたり』(19)。タイトルと日本版ポスターはヒューマンな伝記ドラマ風ですが、実はこれもファイト一発映画です。1862年のロンドンで、気象学者の2人が気球に乗って高度7,000メートル超の世界でデータ集めに挑むのですが……途中で気球が故障し、上がりっぱなしに。酸素は薄くなり、気温は急激に下がり、おまけに気球全体も危うい感じに。果たして地上に戻れるのか?というお話です。どこまでも広がる美しい空の風景と、無情に上昇を続ける気球の中でボロボロになっていく主人公らの対比が強烈な1本です。
『ラスト・ブレス』© LB 2023 Limited
最近の作品ですと『FALL/フォール』(23)は欠かせません。地上610メートルの鉄塔で宙吊りになってしまった女性たちが、何とかして地上に降りようと奮闘する作品です。610メートルで宙吊り!という力強い設定は、日本でも話題になりました。手に汗握るスリラーに仕上がっており、なんと続編制作中との事なので、こちらも楽しみに待ちたいと思います。
岩に挟まったり、海や宇宙に放り出されたり、高度10,000メートルに無装備で連れていかれたり、610メートルの鉄塔で宙吊りになったり、海底91メートルに酸素残量10分で取り残されたり……ファイト一発映画は、これまで色々な危機を描いてきました。しかしシチュエーションの差はあれど、己の肉体と知恵、誰かのサポートを武器に、危機を乗り越えるカタルシスは共通しており、その魅力は普遍的なものです。自然の驚異を乗りこえる人間賛歌とも言えますし、ひと昔前の「世界まる見え!テレビ特捜部」の『レスキュー911』的な、怖い物見たさでもあります。ともかく私たちが大逆境からの大逆転を求める限り、きっとこれからも色々な耳を疑うような危機に陥った人間が、ガッツと知恵と体力でサバイバルする映画が作られ続けることでしょう。
文:加藤よしき
本業のゲームのシナリオを中心に、映画から家の掃除まで、あれこれ書くライターです。リアルサウンド映画部やシネマトゥデイなどで執筆。時おり映画のパンフレットなどでも書きます。単著『読むと元気が出るスターの名言 ハリウッドスーパースター列伝 (星海社新書)』好評発売中。
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配給:キノフィルムズ
© LB 2023 Limited