その後も続いたイヴとマーゴ因縁の関係
そして、本当の舞台裏はより皮肉でドラマチックだった。第23回のアカデミー賞でマンキウィッツが監督賞と脚色賞を獲得する傍らで、共に主演女優賞候補に上がっていたデイヴィスとバクスターだったが、結局票が割れて栄冠は『ボーン・イエスタデイ』(50)のジュディ・ホリデイの手元に転がり込む。それから20年後の1970年、『イヴの総て』はブロードウェー・ミュージカル「アプローズ」として幕を開ける。この時、マーゴを演じたローレン・バコールはミュージカル初主演でトニー賞の主演女優賞に輝くが、1年後にアン・バクスターがマーゴ役を引き継ぐという、まるで映画と同じ経緯を辿った。「アプローズ」は1972年に劇団四季制作、越路吹雪主演で日本版にリメイクされている。
この話にはまだ続きがある。さらに時は過ぎて1983年に放送をスタートしたTVドラマ「Hotel」(~88)で、ベティ・デイヴィスはホテルオーナーのトレント夫人を演じていたが、シーズン1の序盤で病に倒れ降板。代わって、トレント夫人の義理の妹という急拵えの役柄でホテルを引き継いだのが、これまたアン・バクスターだった。ここまで来ると、因縁と思わざるを得ないではないか。

『イヴの総て』(c)Photofest / Getty Images
ウディ・アレンも拝借したイヴ
イヴとマーゴは時を経ても話題に事欠かない、それだけ魅力的な存在なのだ。その証拠に、2017年に今は亡きダイアン・キートンがAFI(アメリカ映画協会)から生涯功労賞を授与された際、最後に舞台に上がって祝辞を述べたウディ・アレンは、こんな風に話し始める。「ダイアンとのことでまず思いつくのは、フィクション上のキャラクターであるイヴ・ハリントンのことだ」
そこから、アレンはキートンがいかに自分を踏み台にしてキャリアアップをしていったかという本音とも冗談ともとれるジョークを連発して、会場を泣き笑いの渦に巻き込んでいった。イヴ・ハリントンと聞いただけで、アレンの狙いが分かるほど、イヴは永遠で、まして映画関係者なら知らない人はいない存在なのだった。見間違えでなければ、最前列に座ってマジで涙を流していたのは監督のジェームズ・L・ブルックスだったはずだ。
スピーチと言えば、映画の冒頭に戻ろう。壇上に上がったイヴはこれまでお世話になった関係者一人一人に感謝の言葉を捧げる。アワードシーズンには嫌というほど聞かされる、タイムキーパーにとっては甚だ迷惑な時間である。しかしその裏には、もしかして違う事実が隠されているかもしれない。
だったら直接伝えろよというツッコミはこの際抜きにして、来たるアカデミー賞授賞式を前に今観ておいて損はない映画だと思う。
アパレル業界から映画ライターに転身。現在、映画com、MOVIE WALKER PRESS、Safariオンラインにレビューやコラムを執筆。また、Yahoo!ニュース個人にブログをアップ。劇場用パンフレットにもレビューを執筆。著書に『オードリーに学ぶおしゃれ練習帳』(近代映画社刊)、監修として『オードリー・ヘプバーンという生き方』『オードリー・ヘプバーン永遠の言葉120』(共に宝島社刊)。
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