『ローマの休日』あらすじ
伝統あるヨーロッパ小国の王女として欧州各国を親善旅行中のアンは、ローマでの夜、ストレス発散にとこっそり街へ繰り出し、ベンチで寝入ってしまう。すると、そこへ偶然通りかかったアメリカ人の新聞記者ジョーが彼女の素性も知らず自分のアパートで休ませることに。しかし翌朝、アンが王女であると知ったジョーは特ダネを掴もうと身分を偽り、彼女をローマ巡りへ連れ出す。やがて、2人の間には恋が芽生えるが…。
映画は時代を映す鏡。画面上に描かれる物語の時代背景は勿論だが、舞台裏、つまり製作された時代の空気が作品に反映されることも多々ある。『ローマの休日』はその最たるものだ。この映画を、ローマを訪れた王女と新聞記者のラブロマンスととらえるのは間違いではないが、そう言い切るには複雑すぎる事情が、裏側に隠されている。
Index
キャプラからワイラーへ渡されたバトン
事の始まりは、映画が公開される4年前の1949年。フランク・キャプラはかつてアカデミー賞に輝いた古典的名作『或る夜の出来事』(34)にアレンジを加えた新作を、ケイリー・グラントとエリザベス・テーラー主演で映画化しようと考えていた。だが、キャプラは希望していた製作費が大幅に削られることを知って、プロジェクトから撤退。代わってメガホンを執ったのがウィリアム・ワイラーだった。
ワイラーは、当初予定されていたカラー作品がモノクロに変更される等、バジェット面で制約を受けながらも、ハリウッド映画初の本格的ローマ・ロケというコンセプトに大きな期待を抱いた。映画が製作されようとした当時は、アメリカ共和党右派のジョセフ・マッカーシー上院議員等が、国内の共産党員または共産党シンパを排斥しようとした通称"赤狩り"の真っ直中。ハリウッドの映画製作もその大きな影響を被った暗い時代である。リベラル派で知られるワイラーは、赤狩りで仕事を干された仲間たちに次々と声をかけ、映画会社の監視の目が届かない遙かローマへと、意気揚々と旅立ったのだった。