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オードリー・ヘプバーン『ティファニーで朝食を』誕生の裏側。世紀の名作の知られざる困難とは?

(c) Photofest / Getty Images

オードリー・ヘプバーン『ティファニーで朝食を』誕生の裏側。世紀の名作の知られざる困難とは?

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『ティファニーで朝食を』あらすじ

朝の宝石店ティファニーの前でデニッシュを食べる娼婦のホリーは、引っ越してきたばかりの駆け出し作家ポールと出会う。酔っぱらいから逃げて部屋へ来て、眠り込んでしまった彼女にポールは興味を抱く。ホリーの夫ドクが彼女を連れ戻そうとするが、彼女は断ってしまう。ホリーがブラジルの外交官と結婚するのを知って傷ついたポールは、小説を売って得たお金をつきつけるが…。


Index


ティファニー宝飾店とオードリー・ヘプバーン



 薄明かりのニューヨーク五番街。太陽が昇る前の青みがかった摩天楼は、まだ静かな眠りについている。遠くの方からイエロー・キャブが緩やかに滑り込み、車は五番街と57丁目の角に位置するティファニー宝飾店の入り口付近でそっと停車した。ドアが開くと現われでたのは、リトル・ブラック・ドレス(小粋な黒のドレス)に身を包んだオードリー・ヘプバーン。彼女は歩道の縁に立つと、ティファニーの店をゆっくりと見上げた……。


 映画史に燦然と輝く『ティファニーで朝食を』(61)は、この明け方の印象的なシーケンスとともに、巨匠ヘンリー・マンシーニの優雅な音楽でもって幕を開ける。


 1960年10月2日(日)の早朝、クランクイン初日の撮影は、まさにここ、ティファニー宝飾店前の五番街ではじまった。朝焼け空の五番街は、普段の喧騒がウソのように静寂だ。しかし、である。太陽はもうじき昇りきって、たちまち朝日に照らされることだろう。猶予は、太陽が昇りきるまでの数時間。しかもこの日は、ソビエト連邦の当時の首相ニキータ・フルシチョフが、7時半に五番街を訪問する予定となっていた。撮影はそれまでに終えなければならない。あまり時間は残されていなかった。


『ティファニーで朝食を』予告


 キャブを降りたオードリー扮するミズ・ホリー・ゴライトリーは、宝飾店のショーウィンドーへと歩み、紙袋に入ったコーヒーを飲み、デニッシュ・ペストリーをかじる。彼女がガラス越しに眺めているのは、ティファニー社専属の宝飾アーティスト、ジャン・シュランバージェの貴重なブレスレットだ。そして、デニッシュを食べながら次に見たのは、小さなシャンデリア。そこに、美しいブローチがぶら下がっている。


 これらは、ティファニー社の伝説的なウィンドー・デザイナー、ジーン・ムーアによるディスプレイだ。この映画によって、彼の手がけたディスプレイ作品が、初めて世界規模の人々へと届けられたのだ。題名がごとくに、ティファニーで朝食をすませたオードリーは、褐色砂岩造りのファッショナブルな住居へと帰宅。


 かくして、ティファニー宝飾店とオードリー・ヘプバーンの撮影初日のこのシーケンスは、いきなりの困難を乗り越え、太陽が昇りきる前に難なく終了した。余談だが、ティファニーは後年、五番街本店内にカフェをオープンし、『ティファニーで朝食を』の題名に恥じない体験を、半世紀以上のときを経て、可能とさせてくれた。




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