1. CINEMORE(シネモア)
  2. 映画
  3. 嵐が丘
  4. 『嵐が丘』視覚を超え、肉体を揺さぶる“触覚的シネマ”
『嵐が丘』視覚を超え、肉体を揺さぶる“触覚的シネマ”

©2026 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved.

『嵐が丘』視覚を超え、肉体を揺さぶる“触覚的シネマ”

PAGES


古典×ポップカルチャーの激しい摩擦



 『嵐が丘』の映画化にあたり、フェネルは自らに多大な影響を与えた7本の作品を挙げている。一見するとジャンルも時代もバラバラなラインナップだが、事細かに見ていくと、本作へのアプローチを解明する完璧なガイドマップになっている。


1.『お嬢さん』(16)パク・チャヌク監督

2.『ロミオ+ジュリエット』(96)バズ・ラーマン監督

3.『The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ』(17)ソフィア・コッポラ監督

4.『遥か群衆を離れて』(67)ジョン・シュレシンジャー監督

5.『青髭』(09)カトリーヌ・ブレイヤ監督

6.『天国への階段』(46)マイケル・パウエル、エメリック・プレスバーガー監督

7.『ロマンスX』(99)カトリーヌ・ブレイヤ監督


 なかでも本作のDNAに深く刻まれているのが、バズ・ラーマン監督の『ロミオ+ジュリエット』だ。シェイクスピアの古語を一言一句変えることなく、ネオン輝く架空都市へ移植し、アロハシャツと銃弾が飛び交うMTV的感覚で悲劇を再構築したラーマン。フェネルはその手法を鮮やかに踏襲している。



『嵐が丘』©2026 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved.


 チャーリー・XCXの先鋭的なビートを轟かせながら、俳優たちにはエミリー・ブロンテの詩的なテキストを忠実に語らせ、あまつさえマーゴット・ロビーにはサングラスまで着用させる。この現代的ポップカルチャーと古典小説の激しい摩擦こそが、名作を過去の遺物で終わらせず、現代に息づく生々しいドラマとして蘇らせた原動力なのだ。


 また、性のタブーに肉薄するカトリーヌ・ブレイヤ監督作が2本も挙げられていることからも、本作がお行儀の良い文芸映画ではないことは明白だ。原作の根底に蠢く破壊的な愛欲をすくい上げ、徹底的に増幅させる演出術。エメラルド・フェネルという映画作家を定義するなら、「理性ではなく、肉体に直接訴えかける戦慄の翻訳者」といったところか。事実、彼女は本作に込めた並々ならぬ野心を、次のように明言している。


 「私が何よりも愛し、自分でも作りたいと願っているのは、身体的な反応を呼び起こすものです。この作品は、涙を流させ、反発を感じさせ、そして興奮させます」(*3)


 フェネルは、キャサリンとヒースクリフの愛がいかに暴力的で、利己的で、破滅的な本質を孕んでいるかを、濃密な官能のなかに描き出す。観客の理性を奪い、剥き出しの感情を引きずり出していく。底知れぬ虚無と甘美なロマンティシズムが交錯する本作は、極めて危険なフィルムなのである。





PAGES

この記事をシェア

メールマガジン登録
  1. CINEMORE(シネモア)
  2. 映画
  3. 嵐が丘
  4. 『嵐が丘』視覚を超え、肉体を揺さぶる“触覚的シネマ”