DogからGodへ
リドリー・スコットのフィルモグラフィーは、神殺しの歴史そのものだ。『ブレードランナー』ではレプリカントが創造主たる科学者を殺め、『プロメテウス』では人類が創造主である宇宙人に反旗を翻す。神を気取る傲慢な存在のメッキを剥がし、特権の座から力ずくで引きずり下ろすカタルシスを描き続けてきたのだ。
しかし『ラスト・サバイバー』では、その神殺しを鮮やかに反転させてみせる。過去の作品が、人類の傲慢さや神の不在を暴いてきたのに対し、この映画は崩壊した世界の瓦礫のなかから、人類が自らの手で新しい神話を生み出す物語へと昇華されているのだ。
思えば、『エイリアン:コヴェナント』に登場したアンドロイドのデヴィッドは、自らのエゴを暴走させ、グロテスクな生物を創り出して世界を破滅へ導いた。だが本作のシーマは、メノー派の子供たちが苦しむ病気が伝染病ではなく、治療可能な疾患だと突き止める。
医療の知識と愛情を武器に病魔を退け、人類の命を未来へとバトンタッチしていく。彼女は、リドリー・スコットの作品の中でこれまで暴走を繰り返してきたマッド・サイエンティストたちの負のループを完全に断ち切る、究極の聖母だ。身勝手なエゴで怪物を創り出してきた過去作から一転、無償の愛で命を修復していくこの変化は、あまりにも劇的といえる。

『ラスト・サバイバー』©2026 20th Century Studios. All Rights Reserved.
よくよく考えてみると、ジャックを演じるガイ・ピアースは、かつて『プロメテウス』で不老不死と神の座を求め、全能感に酔いしれた巨大企業社長ピーター・ウェイランドを演じていた。そんな彼が、この映画では過酷な世界で娘を守るためだけに必死に生きる、ごく普通の無力な父親へと完全シフトしている。
神の視点から人間を見下ろしていた老匠が、人間の弱さや身の丈にあった愛情へと真っ直ぐに眼差しを向けている。神殺しの物語から人間賛歌へと舵を切ったことを示す、最高のキャスティングではないか。
偽りの神々を玉座から引きずり下ろしたスコットが、この荒廃した世界で最後に提示する新たな祈りの対象。それこそが、激しい戦いのなか、自らを盾にしてヒッグをかばった愛犬ジャスパーだ。そもそもジャスパー(碧玉)という石には、大地に足をつけて生きるという意味が込められている。大空ばかり飛んで現実から目を背けていたヒッグを、この世界に繋ぎ止めていたのは、まぎれもなくこの犬だった。
ヒッグはシーマとともに夜空を見つめ、星座の一つにジャスパーの名を捧げた。英語のDogをひっくり返せばGodになる。神も秩序も失われた荒廃した世界で、見返りを求めず無償の愛をくれた犬こそが、新しい神の代わりだったのではないか。夜空の星に犬の名を刻む行為は、絶望のどん底から人類が新しい神話をゼロから紡ぎ出した瞬間だ。ここにも、かつて神と人間の関係性を問うた男が、最終的に神ではなく人間の手による連帯に希望を見出したという思想的な大転換が表れている。
人類はこれからも過ちを繰り返すかもしれない。それでも、互いに手を差し伸べ合い、夜空に新しい希望の星座を見出すことができる。過酷なサバイバルの果てに88歳の老巨匠が静かに手渡してくれたこのメッセージこそ、いまを生きる私たちが真っ先に受け取るべき、かけがえのない道標なのだ。
(*1)https://malaysia.news.yahoo.com/humanity-keeps-making-same-mistakes-093035487.html
(*3)https://www.youtube.com/watch?v=ZhNVhkAQM9k
文:竹島ルイ
映画・音楽・TVを主戦場とする、ポップカルチャー系ライター。WEBマガジン「POP MASTER」(http://popmaster.jp/)主宰。
『ラスト・サバイバー』
大ヒット上映中
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
©2026 20th Century Studios. All Rights Reserved.