※本記事は物語の結末に触れているため、映画未見の方はご注意ください。
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88歳の厭世主義者が到達した新境地
リドリー・スコットほど、人類に絶望しきっているペシミストはいない。半世紀にわたって彼が暴き出してきたのは、自らの欲望に突き進み、同じ過ちを延々と繰り返す人間たちの愚かさだ。
企業の利益のためなら、乗組員の命なんぞ平気で切り捨てる『エイリアン』(79)。レプリカントを通じて人間の傲慢さを告発した『ブレードランナー』(82)。欲に目が眩んだ人々が自滅していく『悪の法則』(13)。神を気取る人類が手痛いしっぺ返しを食らう『プロメテウス』(12)と『エイリアン:コヴェナント』(17)。
文明の発展に浮かれる人類の足元を容赦なく掬い上げ、直視したくない醜さを叩きつける。監督自身、「私たちは過去の出来事から多くを学ばず、同じ過ちを延々と繰り返している」(*1)と語り、いつまでも紛争や環境破壊が絶えない現実を前に「私たち人類は一体どうしてしまったんだ?」(*2)と嘆く。彼はめちゃめちゃ頑固で、めちゃめちゃ口の悪い厭世主義者なのだ。
ところが、である。壊滅的な感染症によって人類の大半が死滅したアメリカを描く最新作『ラスト・サバイバー』(26)で、この偏屈な老匠は、あろうことか我々の予想を裏切る“希望”をスクリーンに刻みこんでみせたのだ。

『ラスト・サバイバー』©2026 20th Century Studios. All Rights Reserved.
原作は、2012年に発表されたピーター・ヘラーの同名小説(原題は「The Dog Stars』)。出版当時はフィクションの世界の出来事に過ぎなかったが、未曾有のパンデミックを体験した今となっては、響き方が全く違う。スクリーンに映し出される光景は、肌をヒリヒリさせるリアルな悪夢として突き刺さるのだ。
物語は、荒廃したコロラド州で幕を開ける。元整備士のヒッグ(ジェイコブ・エロルディ)は、愛犬ジャスパーや凄腕スナイパーのバングリー(ジョシュ・ブローリン)とともに廃墟の飛行場で生き延びていた。
ある日、心の拠り所だった愛犬を略奪者の襲撃で失ったヒッグは、微かに受信した無線を頼りに生存者を探すため、古いセスナ機で西へと飛び立つ。道中、年老いたポップス(ガイ・ピアース)や若き未亡人シーマ(マーガレット・クアリー)と出会い、過酷なサバイバルのなかで真の連帯を模索していく。
普段は自ら企画を立ち上げるスコットだが、今回は送られてきた脚本を読み、即座に映像化を決意。「1ページ半も読めば、信頼できる書き手かわかる!」(*3)と豪語する彼を惹きつけたのは、絶望の底に流れる力強い希望の光だったのではないか。