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新鮮さと老練さを併せ持つ『ヘレディタリー/継承』の計算された作品構造とは

新鮮さと老練さを併せ持つ『ヘレディタリー/継承』の計算された作品構造とは


自分の内面に恐怖するホラー作品



 サイコホラー/スリラーといえば、まず思い浮かぶのは、サスペンスの巨匠アルフレッド・ヒッチコック監督による『サイコ』(1960)や『白い恐怖』(1945)などの作品である。本作では、祖母の意識が生きている人のなかに乗り移っているような描写もある。果たしてそれが悪霊のような超自然的なものの仕業なのか、それとも生きている人間のなかの依存心が、死んだ人物の心理を擬似的に自分の中に作り出しているのか。それをはっきりとは示さず曖昧な位置に置いておくことが重要なのだ。


 この人間の狂気を描く系譜に連なる作品に、黒沢清監督の代表作の一つ『CURE』(1997)がある。役所広司が演じる刑事は、精神状態が不安定な妻と暮らし、家で献身的に妻の面倒をみているが、ある殺人事件を調べているうちに、刑事は妻の死んでいる幻影を見ることになる。この刑事の深層心理には、どうやら妻を疎ましく思っており、死んでほしい気持ちがあるということに、観客は少しずつ気づかされていく。




 本作でも、家族に対する疎ましさが繰り返し描かれる。ニコラス・ローグ監督の『赤い影』(1973)を想起させるような不気味さを持った妹(ミリー・シャピロ)は、ところ構わず奇行を繰り返しており、「コッ」「コッ」と断続的に舌を鳴らす、周囲にとって不快な癖を持っている。さらに深刻な食物アレルギーによって、家族は常に彼女に気を配ってなければならない。


 家族とは、お互いを大事に思っていて、いざというときは命を懸けてでも救いたいと思っているというように、多くの映画では描かれてきた。そこに観客は共感を覚えるからである。しかし『CURE』の刑事や、本作における家族たちのように、じつは家族の存在が邪魔だと密かに思っていて、ときに死んでほしいという願望でさえも、観客によっては共感してしまえるはずである。そして、この気持ちに共感してしまうような、自分の中の恐ろしい気持ちに気づかされた瞬間に、観客は真の恐怖を味わうのである。



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