1. CINEMORE(シネモア)
  2. 映画
  3. ワンダーウーマン
  4. 『ワンダーウーマン』時代設定を変えたのは何故?大胆な決断に込められた二つの狙い
『ワンダーウーマン』時代設定を変えたのは何故?大胆な決断に込められた二つの狙い

(c) 2017 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

『ワンダーウーマン』時代設定を変えたのは何故?大胆な決断に込められた二つの狙い

PAGES


物語の舞台が「1918年」へ変更された理由とは?



 本作が、パティ・ジェンキンス率いる並外れた制作チーム、そして主演のガル・ガドット、クリス・パインを始めとする秀逸かつ多彩なキャストによって支えられた作品であることは言うまでもないこと。これによって誰もが大興奮に浸れる最高のヒーロー映画が誕生したわけだが、実はそのストーリー面において画期的な設定変更が施されていることも忘れてはならない。


 というのも当初、ワンダーウーマンとスティーブ・トレバー大尉(クリス・パイン)が出会うのは第二次大戦のさなかだったのだが、これが数十年も前倒しされ、第一次大戦の末期、1918年へと移行されているのだ。


 そこには2つの意図が見え隠れする。一つには、第一次大戦というものがこれまでの戦争の概念を大きく覆すものであったこと。それまでは顔の見える相手と至近距離にて命のやり取りを交わす接近戦が主流だったが、それが大量破壊兵器を導入されることで激変。敵がどのような顔をしているのか、あるいは自分が誰を殺そうとしているのかを知らないまま銃を放ち、爆撃を遂行し、死傷者の数もこれまでと比べ物にならないほど爆発的に膨れ上がった。


 思えば、冒頭に描かれるセミッシラ島での女性戦士たちは、一人一人が自己を確立し、自分が人を殺めていることをしっかりと自覚した上で戦っているように感じられたものだった。それに比べると第一次大戦では兵士たちが何か巨大な魔物に突き動かされているようでもあり、それゆえワンダーウーマンにとっても、市民にとっても、この“かつてない戦争”の正体が極めて理解しがたく、不気味かつ邪悪なものに思えたことだろう。そういった印象を色濃く伝える上でも、この時代が選ばれたことには大きな意味があると言える。


 もう一つには、1910年代という時代性が婦人参政権運動の初期ムーブメントと期を同じくするということが挙げられる。ワンダーウーマンは世俗とは隔絶された女性だけの種族が暮らすセミッシラ島で、強く、自立した女性たちに囲まれながら成長してきた。こうした環境下で育った彼女が10年代のロンドンへ乗り込むことで一つの社会風刺的な視点が起動する。


 女性の権利が制限されていた当時の空気の中にワンダーウーマンが立つ。ただそれだけで、大きな化学変化が生じるのは明らかだ。彼女は怯むことがない。颯爽としている。それに、かけがえのない仲間たちとも対等な関係性を築き、とりわけワンダーウーマンとスティーブはあらゆる局面において互いの存在から多くのものを学び合っていく。こうした姿を浮き彫りにする上でも「1918年」には極めて意義深い狙いがあったのだ。


 ジェンキンス監督は「ワンダーウーマンを映画ファンに見てもらうには、今が絶好のタイミング。コミックスのファン以外の人々も、この新ヒーロー映画をようやく受け入れられるようになったと思う」と語っている。確かにこの作品は2017年の今だからこそ絶妙に効力を発揮したのかもしれない。そうやって現代から照射された光が「1918年」を照らすことで立体的な状況が生まれ、ヴィヴィッドな息遣いと伝えるべきテーマ性が見事に立ち上がっていく。


 かくも『ワンダーウーマン』は単なる勧善懲悪のヒーロー物というだけでなく、そこには「語るべき物語」が重層的に備わっている。ワンシーンごとにそのことを意識しながら観ると、本当にこの「1918年」という設定変更が、本作にとって不可欠な要素だったことを改めて納得させられるのである。



PAGES

この記事をシェア

メールマガジン登録
  1. CINEMORE(シネモア)
  2. 映画
  3. ワンダーウーマン
  4. 『ワンダーウーマン』時代設定を変えたのは何故?大胆な決断に込められた二つの狙い