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『ビフォア・サンセット』「永遠」を生み出し閉じ込めた、奇跡の映画

(c)2017 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

『ビフォア・サンセット』「永遠」を生み出し閉じ込めた、奇跡の映画

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映画とは何か



 本作のカフェでの会話も思い出してみてほしい。セリーヌは、『6才のボクが、大人になるまで。』(14)の主人公の母親のように、年を取るごとに時間が早く過ぎていくように感じることを嘆く場面がある。それに対してジェシーは、「僕は年を取るのは好きだな。いまという時間をより大切に過ごせる」と語り、セリーヌは同意する。


 そこでジェシーは、バンドでドラムを叩いていた過去を語り出す。そのときバンドのメンバーたちは、レコードを出してデビューするという、先のことばかりを話し合っていたが、いまではそのバンドは影も形もなく、何もかもが懐かしい思い出になったのだという。いまという一瞬の時間は、すぐに過去のものとなっていく。そしてそれは、思い出のなかで永遠のものとなる。だから永遠という時間は、いまという一瞬にも存在することになるのだ。セリーヌの部屋に飾られていた写真のなかで、彼女と祖母の姿が残り続けているように。


 ジェシーが、セリーヌの部屋で彼女が踊っているのを眺めているとき、彼はまさに9年前に二人が別れる前の早朝、ウィーンで踊っていたことを思い出していたのかもしれない。そして、その体験はまたすぐに過去のものとなり、9年前のダンスと1秒前のダンスは、ジェシーの人生のなかで本質的には“同じもの”として、並列的に並べることができる過去となる。そのとき、時間というものは本人にとって、きれいに順番通りに並べられるようなものではなくなるのだ。



『ビフォア・サンセット』(c)2017 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.


 本作の上映時間は、クレジット部分を抜かせば76分、4560秒ほどである。通常の映画作品は、一秒24コマの写真の連続で作られているため、本作は約10万9440枚の写真によって構成されていることになる。観客にとっての映画体験とは、その写真がシーンごとにバラバラに切り離され、脳に記憶されていくという現象である。そしてまさにジェシーが体験した時間の流れのように、それは前後の制約から自由なものとなる。


 映画の特徴とは、ある記録された時間を切り取って、他の時間と組み合わせられるということである。つまり、偽りの時間を作り出しているのだ。本作も、一見リアルタイムに見せて、何日もかけて撮影されたものをつなげたフェイクなのである。だが、それは過ぎ去った「時間」と本質的な違いがあるだろうか?そして、映画が生み出した時間が一種の“まやかし”であることが、おそらくは本作のなかで二人にとって最も幸せな瞬間に途切れることによって示されることになる。



永遠を生み出すこと



 この後、ジェシーは部屋に残るのかもしれないし、急いで空港へ向かうかもしれない。どちらの選択をしたとしても、彼は後悔の念を感じることになるだろうし、セリーヌもまた同様である。だから、まだどちらも選びきれていない、でも二人が求めあっていることが実感できている、いまこの瞬間こそが、二人にとって最も美しい時間であるはずである。その瞬間に本作を断絶させることで、リンクレイター監督は、魔法のような二人の時間を保存することにしたのである。


 後にリンクレイター監督はインタビューのなかで、前作『ビフォア・サンライズ/恋人までの距離(ディスタンス)』について、自身の体験に基づくものだということを告白している。そして、本作におけるセリーヌとジェシーの再会のように、監督は彼女がプレミア上映の場に現れることを期待していたのだという。しかし、彼女は来なかった。じつはその女性は交通事故ですでに亡くなっていたということを監督が知るのは、さらにその後のことだ。



『ビフォア・サンセット』(c)2017 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.


 だが時が過ぎ去ってみれば、その悲しみも、彼女との幸せな時間も、同じ永遠のなかにある。「時間」にそのような救いが存在することを、まさに時間の芸術である「映画」によって、リンクレイター監督は、本作で表現することに成功したのだ。そう、『ビフォア・サンセット』は、「永遠」をきわめて自覚的に生み出した映画なのである。



文: 小野寺系

映画仙人を目指し、さすらいながらWEBメディアや雑誌などで執筆する映画評論家。いろいろな角度から、映画の“深い”内容を分かりやすく伝えていきます。 

Twitter: @kmovie



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(c)2017 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

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