※本記事は後半の3ページ目以降にネタバレを含みます。未見の方には鑑賞後の閲覧をおすすめします。
『マグノリア』あらすじ
死の床で息絶えんとするテレビの大物プロデューサー、彼が昔捨てた息子、プロデューサーの若い妻、看護人、癌を宣告されたテレビのクイズ番組の司会者、彼を憎む娘、彼女に一目惚れする警官、番組でおなじみの天才少年、かつての天才少年……。ロサンゼルス、マグノリア・ストリート周辺に住む、一見、無関係な多くの主人公たちの運命がふとした偶然で交差し合う群像劇。
Index
「トム・クルーズの映画」として売ることを拒んだPTA
『マグノリア』は1970年生まれの監督、ポール・トーマス・アンダーソン(以下PTA)の長編第3作。40代前半までに世界三大映画祭すべてで監督賞の受賞を果たし、「若き巨匠」とも評されるPTAだが、『マグノリア』製作当時はまだそれほど名声があったわけではなかった。配給会社のニュー・ライン・シネマは当初、「トム・クルーズの映画」として宣伝することを望んだ。一方PTAは「これは群像劇だから」と拒否し、マグノリアの花弁上に主要キャラクター9人をほぼ均等に割り振ったポスターをデザインして、同様に予告編も自ら編集した。
『マグノリア』予告
このエピソードからは、プロモーションの方針に至るまで妥協しないPTAの強い作家性がうかがえる。ただし、自身の発想やスタイルに徹底的にこだわるタイプというわけでもなく、さまざまなアイデアを取り入れる柔軟な一面もある。たとえば、PTAは本作の発端について、「本を脚色して映画を作るように、エイミー・マンの歌を脚本に翻案するというコンセプトを思いついた」と語っている。一体どういうことだろうか?