(c)2018 METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC. AND WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.
『クリード 炎の宿敵』名脚本家スタローンが甦らせた、ロッキーシリーズの魂
ロッキーとロバート、前作で語られなかった“親子の物語”
『クリード 炎の宿敵』の脚本で特に感心させられるのは、前作『 クリード チャンプを継ぐ男』の落ち穂拾いを丹念に行っていることだ。例えばアドニスのガールフレンドでミュージシャンのビアンカが難聴を患っている設定は前作では大きく展開することはなかったのだが、今回はアドニスとビアンカの人生を前進させ、成長させる大きなきっかけになっている。
『クリード 炎の宿敵』(c)2018 METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC. AND WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.
最大の落ち穂拾いは、ロッキーの息子ロバートのエピソードだろう。正直、前作のクーグラー監督に不満があるとすれば、ロッキーと息子ロバートを断絶させてしまったことだ。孤独なロッキーが、父親を知らないアドニスにとっての父親代わりになっていくという基本プロットはいいのだが、そのために『ロッキー3』から登場していたロバートがバンクーバーに引っ越して疎遠になったという設定にしてしまったのだ。
実は大人になったロバートが父ロッキーと疎遠になり、やがて父と和解して応援するまでのエピソードは『ロッキー・ザ・ファイナル』で感動的に活写されていた。ところが『クリード チャンプを継ぐ男』で言葉少なに語れるところによると、ロバートは其の後、偉大な父ロッキーの影に覆われることを嫌って、地元フィラデルフィアを去ったというのだ。これでは『ロッキー・ザ・ファイナル』の親子エピソードがふりだしに戻ってしまったではないか。
シリーズ物が続く中で、過去作に出てきたキャラクターが、さまざまな大人の事情でないがしろに扱われる例は数多い。『クリード チャンプを継ぐ男』におけるロバートの不在も、筆者はその一種だと判断せざるを得なかった。しかし、だ。スタローンは本作で『ロッキー・ザ・ファイナル』でロバートを演じたマイロ・ヴァンミリテリを呼び戻し、棚上げされてしまったロッキー親子の物語にも落とし前を付けてみせた。ある意味で、ロッキーとロバートの再会シーンは、「クリード」シリーズと「ロッキー」シリーズの和解の瞬間にも感じられた。
実はスタローンは『ロッキー・ザ・ファイナル』でも、過去作の忘れられていたキャラクターを呼び戻すことで、作品に奥行きを増すことを成功させていた。そんなスタローンだからこそ、本作のように、シリーズのすべてを包み込むような大きな物語を紡ぐことができたのだろうと想像せずにいられないのである。
文: 村山章
1971年生まれ。雑誌、新聞、映画サイトなどに記事を執筆。配信系作品のレビューサイト「ShortCuts」代表。
『クリード 炎の宿敵』
2019年1月11日(金)より全国ロードショー
配給:ワーナー・ブラザース映画
公式サイト: www.creedmovie.jp
※『クリード2(原題)』全米公開11月21日
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※2019年1月記事掲載時の情報です。