(c)2018 METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC. AND WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.
『クリード 炎の宿敵』過去と対峙するイワン・ドラゴ/ドルフ・ラングレンの物語
一番の憎まれ役を買って出たルドミラ役のブリジット・ニールセン
脚本を執筆したのはスタローン(と共同脚本のチェオ・ホダリ・コーカー)だが、冒頭にドラゴ親子のシーンを持ってくるアイデアを出したのは、クーグラーの推薦で監督に抜擢されたスティーヴン・ケープルJr.だったという。この冒頭によって、本作はアドニス&ロッキーの師弟物語だけでなく、イワン&ヴィクターの親子の物語でもあることを宣言している。そして『ロッキー4』ではイワンの妻だったブリジット・ニールセン演じるルドミラまで再登場することで、ドラゴ親子の人生模様はさらに奥行きを増していくのである。
ブリジット・ニールセンがスタローンの元妻だったことを思えば、彼女が『クリード 炎の宿敵』において唯一無二のヒールキャラであるルドミラ役を再演してくれたことは、映画ファンとしては感謝の念しかない。スタローンとのプライベートの関係性は知らないが、ルドミラ絡みのシーンのおかげで、われわれはイワンが復讐しようとしていた相手はロッキーでもアドニスでもなく、自分たち親子を捨てたルドミラだったことがわかる。
『クリード 炎の宿敵』(c)2018 METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC. AND WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.
今回、復讐の鬼のように登場するイワンは、息子ヴィクターを鼓舞するのではなく、侮辱し貶めることで戦意に火を付けようとする。父親としてトレーナーとして、憎しみを利用してヴィクターをコントロールしようとしている描写が随所に見られるのだ。ヴィクターはヴィクターで、父に認められたい、父の愛情を向けて欲しいという鬱積した感情を抱えている。そんな二人が初めて対立するシーンが、前述のルドミラが劇中でドラゴ親子の前に現れる晩餐会のシーンだ。
この時点で、ヴィクターは反則負けになったとはいえチャンプのアドニスをリング上で圧倒しており、ロシアの支配階級は再びドラゴ親子を受け入れようとしている。そこに現れるのが、イワンとヴィクターを捨ててカネも権力もある別の男に鞍替えしたルドミア。息子ヴィクターはどの面を下げて会いに来たのかと激昂するのだが、それをたしなめるイワンにルドミラへの怒りはない。再びルドミラの関心が自分たちに向いたことで、満足してしまっているのだ。
ドラゴ親子の闘いが二人三脚であるならば、父イワンのモチベーションが満たされてしまったこの時点で、アドニスとの再戦での敗北は決まっていたのかも知れない。そしてヴィクターに残されたのは、宙ぶらりんになった父イワンへの不憫さと、それまでの原動力だった行き場のない憤りであり、かくしてクライマックスは、イワンとヴィクターが親子としてどう落とし前を付けるかというサブプロットがより盛り上がる仕組みになっているのだ。