(c)2018 METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC. AND WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.
『クリード 炎の宿敵』過去と対峙するイワン・ドラゴ/ドルフ・ラングレンの物語
『ロッキー4』のドラゴは冷血なロボットボクサーだったのか?
ドルフ・ラングレンは『クリード 炎の宿敵』のインタビューで、果たして『ロッキー4』のイワン・ドラゴが感情のないロボットのような人間だったのかについて言及している。ラングレンによると、ドラゴ役のオーディションで他の候補者たちが相手を挑発するような荒くれロシア人として演じているのに対し、もっと無口なキャラとしてアプローチしたのをスタローンが気に入って、寡黙で冷静なドラゴの人物像が生まれたのだという。
ラングレンは、ソ連の軍人の顎がピンと上がった姿勢の良さが印象に残っており、また、ロシア語コーチからソ連のアスリートがいかに軍隊のように厳しく管理されているかを聞いて、ドラゴのキャラクターに取り入れた。設定上でもドラゴは軍属であり、ラングレンはあくまでもシステムに利用されている存在だと考えていたという。
イワン・ドラゴはアポロが死ぬ際にマイクを向けられて「When he dies, he dies(字幕では「死は止められない」)」とコメントする。これはドラゴがいかに非情かを示す象徴的なセリフとして捉えられがちだが、ラングレンは「悔恨の情」を込めて演じていたと語っている。実際に『ロッキー4』を観直してみると、当該のセリフよりもその直前の表情に、ドラゴがセリフとは裏腹なやるせなさが表れているように見える。ラングレンはドラゴのことを「フランケンシュタイン博士が作った怪物」になぞらえており、自由意思を奪われた被害者だと考えていたのだ
『クリード 炎の宿敵』では、イワン・ドラゴは息子ヴィクターに対してモンスターペアレントとも言える存在になっている。ボクシングのイロハを叩き込むだけでなく、精神的に追い詰めることで闘いの場に追いやり、決して安らぎを与えようとしない。実はこの関係性も、ラングレン自身の生い立ちが大きく反映されている。ラングレンは父親から虐待を受けて育ち、映画のキャリア以前に空手家として成功したことも「父に認めてもらうためだった」と告白している。ラングレンは監督のケープルJr.に自らの生い立ちを話し、二人で映画に取り入れることを決めたのだという。
『クリード 炎の宿敵』(c)2018 METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC. AND WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.
歴史が繰り返すように、ラングレン/イワン・ドラゴは息子ヴィクターに自分が受けたのと同じ仕打ちを繰り返している。しかし物語が進むにつれて、イワンは自分自身の過去から逃れ、ヴィクターと向き合える父親になっていく。本作の公式の主人公はアドニスとロッキーかも知れないが、映画のラストで二人並んでランニングをするようになったドラゴ親子の姿をみると、心底ホッとさせられるだけなく、えもいわれぬ感動が押し寄せる。そしてドラゴ親子のドラマは、ドルフ・ラングレンという男が自分自身の人生を注ぎ込んだからこそ、これほど深く濃密なものに昇華されたのだ。
参考:
Screen Crush、ドルフ・ラングレン インタビュー
https://screencrush.com/creed-2-interview-dolph-lundgren/
Hollywood Reporter、ドルフ・ラングレン インタビュー
文: 村山章
1971年生まれ。雑誌、新聞、映画サイトなどに記事を執筆。配信系作品のレビューサイト「ShortCuts」代表。
『クリード 炎の宿敵』
2019年1月11日(金)より全国ロードショー
配給:ワーナー・ブラザース映画
公式サイト: www.creedmovie.jp
※『クリード2(原題)』全米公開11月21日
(c)2018 METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC. AND WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.
※2019年2月記事掲載時の情報です。